過払い金の争点とは? | 資金繰り 事業再生 M&Aアーク司法書士法人@代表社員 李 永鍋(リ ヨンファ)のブログ

過払い金の争点とは?

過払い金返還請求訴訟を提起すると,

争点があるケースについては,貸金業者から反論が出ます。

その最も代表的な争点が「取引の分断」の争点ですが,

他にもいくつか,業者の方から

反論が出る争点がありますので,以下簡単にご説明します。



悪意の受益者

消滅時効

和解契約の錯誤無効

推定計算

債権譲渡・営業譲渡・切替契約



悪意の受益者

過払い金は年5%の利息を付けて請求をしますが,この年5%の利息が認められるためには,貸金業者が,過払い金について「悪意の受益者」に当たることが必要です。
最高裁平成18年1月13日判決以降,貸金業者が『みなし弁済』を主張立証することはほぼ不可能な状態になりました。これを受け,業者側は,同判決が言い渡されるまでは『みなし弁済』の適用を信じていたのだから,それまでに生じた過払い金については「悪意の受益者」にあたらないという主張をしてくるようになりました。
しかし,これについては,最高裁平成19年7月13日判決等が,「貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項(みなし弁済)の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである」と判断し,特別の事情がある場合を除いては,貸金業者は「悪意の受益者」にあたると説示したため,ほぼ全てのケースで利息も請求できることとなったのです




消滅時効

通常,債権は10年間行使しないと時効により消滅してしまいます(民法167条1項)。そして,この時効期間は,権利を行使できる時から進行します(民法166条1項)。権利を行使できる時とは,

(1)権利の行使につき法律上の障害がないことや,

(2)権利の性質上,その権利行使を現実に期待できることを意味します。

それでは,過払い金の消滅時効期間は,いつから進行するのでしょうか。
上記の規範に当てはめると,過払い金については,過払金が発生した時から過払金返還請求権の行使が可能になるので,消滅時効が進行するのは,過払金が発生した時からということになります。つまり,ある貸金業者と借主との間で,複数の金銭消費貸借契約を締結していた場合に,それぞれの金銭消費貸借契約について過払金が発生すると,過払金返還請求権の消滅時効は,それぞれの過払金返還請求権ごとに進行します。これが基本的な考え方となります。

しかし,この原則をリボルビング方式の継続的な貸付契約などに当てはめると,少し不都合な結果となってしまいます。すなわち,債務者は,継続的に借入・弁済を繰り返す中で,一旦発生した過払い金が新たな借入に充当されていくため,過払い金返還請求をその取引の最終に行うことは考えにくいのです。
そこで,最高裁平成21年1月22日判決は,「継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が、利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合には、上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、上記取引が終了した時から進行する。」,すなわち,リボルビング方式の継続的な貸付の場合には,取引が終了するまでは,過払金を請求しないという暗黙のルールがあるため,取引終了までは過払金返還請求権を行使できないことになり,消滅時効の期間は最終の取引日から進行するとされました。
なお,これは継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約がある場合の時効の話ですので,証書貸付が繰り返された場合などに直接適用されるものではなく,基本契約がない場合に時効期間がいつから進行するかについては,今でも判断の分かれるところです。
消滅時効期間がどこから進行すると考えるかにより,請求できる過払い金の金額が100万円以上異なるというケースもありますので,慎重な検討と訴訟活動が重要となります。

時効の是非が問題となりそうなケースは,難しい法律判断が必要となりますので,数多くの過払い金返還請求の実績をもつ日比谷ステーション法律事務所までご相談ください。




和解契約の錯誤無効

債務者が,実際には過払い金が発生しているのにそのことを知らず,過払い金を前提としない和解を締結してしまったというケースがよくあります。
そもそも和解契約とは,当事者間に争いがあることを前提に,当事者がお互いに譲り合って権利関係を確定するという契約です。そのため,和解当時の権利関係が和解内容と食い違っているというだけでは,当該和解契約は無効とはなりません。これを和解の確定効といいます。

しかし,和解の前提となった事項について錯誤がある場合には,和解が無効となり,過払い金請求ができることもあります。 これまでの裁判例に照らすと,貸金業者との和解契約の錯誤無効が認められるか否かは,
(1)和解契約の時点で債務者が取引履歴の開示を受けていたか
(2)債務者が過払い金発生の有無を認識しえたか(債務者の職業等)
(3)その当時いくらくらいの過払い金が発生していたか
(4)和解契約に法律の専門家である弁護士がからんでいるか
などの事情により決せられますが,個々の裁判官により判断の手法は異なります。

大変難しい法律問題ですので,お悩みの際は日比谷ステーション法律事務所までご相談ください。



推定計算

貸金業者が,昔の取引履歴を破棄してしまったとして,全部の取引履歴の開示を受けられないという場合があります。
その場合,一定時点よりも前の取引内容がわからないことになりますので,正確な引き直し計算ができず,過払い金の正確な金額も把握できないということになります。

しかし,ご依頼者様のお手元に,契約書や通帳の引き落としの履歴,ATMの伝票などの資料があれば,実際にあったであろう取引内容を再現することによし,推定で引き直し計算をすることが可能です。
ただし,この推定計算を裁判所に認められるかどうかは,証拠や本人の記憶が確かなものといえるかにかかってきます。推定計算をした結果算出された過払い金を請求するとなると,貸金業者はその推定計算の合理性を徹底的に争ってきますので,解決までに時間もかかります。
そのため,慎重に検討した上で,推定計算を利用するかについて方針を定めていく必要があります。



債権譲渡・営業譲渡・切替契約

貸金業者法の改正に伴い,貸金業者の再編・淘汰が進んでいます。こうした状況の中,当初貸付をしていた貸金業者が,他の貸金業者に貸金債権を譲渡したり,営業譲渡をしたりするケースが相次ぎました。
これらの場合に,譲渡を受けた貸金業者が,譲渡前の貸金業者において生じた過払い金の返還債務を承継するか否かは,当該譲渡契約の内容により異なってきます。

いずれにせよ,難しい法律相談をはらむ争点ですので,債権譲渡・営業譲渡・切替契約が争点となりそうな事案については,司法書士、弁護士の協力が不可欠といえます。