高校を卒業した東浜朝子(早瀬憩)は,自らの死期が近いことを悟った入院中の祖母道代(原田美枝子)から呼び出される。

 

 

 

 朝子は父が1歳の時,母紗月(堀田真由)が5歳の時に亡くなり,祖母に育てられてきた。

 父の思い出はもちろんなく,わずかな母の思い出さえ写真を見て自分で作り出したものかもしれないと思っている。

 祖母はどうしても朝子に伝えておかなければならないことがあると言い,年に一度,送られてくる西山夕平(坂口健太郎)からの手紙を見せる。

 ただ,その内容はどれも謝罪の言葉だけだということである。

 祖母は朝子に母が亡くなる前の半年間だけ,父親のような人がいたことを覚えているかと尋ねるが,思い出せない。

 

 西山夕平は幼い頃に両親を無くし孤独に暮らしてきたが,ゴム手袋工場で働くようになった。

 副班長という肩書きはあるが,契約社員で手取り年収は240万円程度である。

 毎日,規則正しい生活を繰り返し機械のように働いており,唯一の楽しみは高級食パンを買うことだった。

 

 

 その工場にある日,東浜紗月という27歳の女性が入ってくる。

 彼女は積極的に夕平にアプローチし,彼のアパートにもやって来る。

 夕平が唯一の楽しみである高級食パンを紗月に振る舞うが,彼女はその断面を見て吹き出す。

 パン切り包丁というものを知らない独身男は,普通の包丁でガタガタに切った食パンを出したのだ。

 紗月は次に来たときにパン切り包丁をプレゼントし,夕平にキスをする。

 パン切り包丁の代金を払うという夕平に紗月は貸しておくと言う。

 

 その後,夕平は紗月のアパートに招かれたが,紗月は少し用があると言って,彼をひとりで先に部屋に入れる。

 するとそこには朝子という5歳の女の子がいた。

 

 

 紗月は夕平に驚いた?と尋ねるが,夕平はそれよりも自分のアパートに来るとき,こどもをひとりにしているのかと責めるように言う。

 紗月は休日保育に出していて,置き去りになんかしていないと答える。

 それを聞いた夕平は,これからは自分が紗月の部屋に来ると言う。

 

 朝子は夕平に懐き,彼との結婚を決意した紗月は,彼を母道代に紹介しようとする。

 先に母の部屋に入った紗月は怒りながら出てきて,夕平にあなたは何も悪くないと言う。

 母はいきなり学歴や年収を聞いていたので,東大卒で年収800万だと言ったと言う。

 紗月は帰ろうとするが,朝子が祖母の家に入っていってしまい,仕方なく対面することになる。

 夕平は道代の紗月や朝子に対する態度から,彼女が嘘を嫌う厳格な性格だと知り,別れ際に都立高校卒で年収は240万円程度ですと告げる。

 道代はそれでやっていけるのと心配するが,夕平の人柄については悪く思っていないようだった。

 

 

 夕平は仕事については,ほとんど向上心というものがなかったが,紗月はゴム手袋工場を辞めて事務職に転職し,資格を取ってステップアップを目指していた。

 

 

 そのため,朝子のお迎えや世話は夕平が引き受けることが多くなった。

 

 紗月が朝子と約束をした遊園地に行けなくなったとき,夕平が代わりに連れて行くことになった。

 朝子がソフトクリームを食べたいというので,夕平が一緒に買いに行こうというと彼女はここで待っていると言い張った。

 夕平は心配したが,ここを動かないようにと言って買いに行き,戻ってくると朝子はひとりできちんと待っていた。

 

 

 しかし,夕平が陰から朝子の様子をそのまま見ていると,不安になった朝子は夕平と叫びながら泣き出してしまった。

 

 

 夕平にとって,自分を頼って待つ人の存在は経験のないことだった。

 

 

 夕平が初めて紗月のアパートに招かれたとき,彼は何か花を持っていこうとしたが,どうすれば良いか分からず,花屋の店員(片山友希)に相談し,もうすぐ花が咲くというサボテンを持って行った。

 

 

 朝子にどんな花が咲くのと聞かれた夕平は,綺麗な花が咲くと答えたが,朝子は自分が持っているクレヨンは8色しかないので上手く画けないと心配する。

 

 

 夕平は,色が一杯入ったクレヨンをプレゼントすると約束する。

 

 朝子は幼稚園の運動会にお母さんが来てくれるか心配していた。

 夕平が必ず来てくれると言うと,朝子は走るのが遅いからお母さんをがっかりさせてしまうと心配する。

 夕平はそれから運動会までの2週間,毎日,朝子と公園で練習を続け,朝子は速く走れるようになった。

 

 

 だが,運動会当日,スタート直前に朝子の靴が脱げ,彼女は最下位になってしまった。

 夕平は思わずグラウンドに飛び出し,やり直して欲しいと叫ぶが,紗月はその姿を見て恥ずかしくなり,彼への気持ちが一気に醒めてしまった。

 紗月から別れを告げられた夕平は理解できず,何度も話し合いたいと言うが,ついにはストーカー扱いされてしまう。

 

 幼稚園のフェンス越しに朝子と話していたことも問題にされる。

 

 

 夕平は,36色のクレヨンを朝子に渡して欲しいと頼むがそれも断られる。

 朝子には,夕平は遠い外国に行って,戻ってこないと伝えられていた。

 

 そんなとき,夕平は東京にできた新しい塔がスカイツリーと名付けられたと知る。

 スカイツリーができる前,紗月と名前が公募されることを聞き,夕平が考えたのがスカイツリーだった。

 そのとき,紗月はもしその名前になったら何でも頼みを聞いて上げると言ったのだ。

 

 

 夕平は紗月とやり直すことをあきらめ,せめてクレヨンを渡して欲しいと頼み,パン切り包丁を返すために紗月のアパートに行く。

 だが,紗月はサボテンはとっくに処分したと言い,夕平が返すために取り出したパン切り包丁を見て驚き階段から落ちて死んでしまう。

 

 その場から逃げ出した夕平はサボテンを買った花屋に入り,あのときの店員にどんな花が咲くはずだったのかと尋ねる。

 店員は,当時,入ったばかりで知識が乏しく間違えたことを伝えてしまった,あのサボテンの花が咲くにはあと12年かかりますと謝る。

 それを聞いた夕平がふらふらと店を出たところで逮捕される。

 

 

 祖母から,母が当時付き合っていた西山夕平という男に殺されたと聞いた朝子は,当時の新聞や週刊誌の記事を調べ,裁判で殺意の有無が問題になったと知る。

 彼女は刑務所に面会に行くが,夕平は自分はあなたに会える人間ではないとだけ言って戻ろうとする。

 

 

 朝子は,祖母が亡くなった今,あなたを憎むことができるのは私だけだと言う。

 

 朝子は当時夕平の弁護人だった町村弁護士(滝藤賢一)に会いに行く。

 町村は裁判では殺意の有無が問題になり,殺すつもりはなかったと言えば15年もの刑にならなかった筈だが,彼は黙秘を貫いたため殺意が認められてしまったと言う。

 

 

 夕平のアパートには普通の包丁もあったのに,わざわざパン切り包丁を持って人を殺しに行くはずはないと思うのだが・・・

 

 朝子は当時のアパートや近所の公園,自分が通っていた幼稚園に行っていろいろなことを調べる。

 

 

 朝子は,幼稚園の先生に聞いた前代未聞のできごとを夕平にぶつける。

 それまで何も話さなかった夕平は,朝子が半月の間一生懸命練習していたことを話す。

 朝子は夕平の行動が自分のためだったことを知り涙を流す。

 

 どうしても当時のことを思い出せない朝子だったが,黄色の風船を持って父親に抱かれている子どもを見たとき,自分にも何か同じようなことがあった気がした。

 夕平は遊園地の帰りに朝子が寝てしまったことを話す。

 

 又,彼女は大学の友人たちから,一人暮らしの男子がパン切り包丁を持っていることはないと言われ,唯一,持っていたのが元カノが置いて行ったという男子だったことを知る。

 朝子はそのことから,当時,夕平が持って行ったパン切り包丁が母のものだったと確信し,町村弁護士にそのことを話す。

 町村弁護士は当時,自分がそのことに気づけなかったことにショックを受ける。

 朝子は,そのことを夕平にも告げ驚かれる。

 夕平は朝子からサボテンに花が咲いたことを知らされる。

 しかし,朝子が最後に殺意があったのかと尋ねたとき,彼が首を縦に振ったのを見て彼女は面会室を飛び出して号泣する。

 

 12年が経過して仮出所が認められた夕平に町村弁護士から朝子の手紙が届けられる。

 朝子は,自分たちは互いに知らない者同士としてこれから生きていこうと綴っていた。

 タクシーの運転手になった夕平の車は,幼稚園の先生になった朝子が引率する子どもたちのそばを通り過ぎる。

 

 

 

 すべての役者の演技が素晴らしい

 早瀬憩はNHK好みの演技なので,そのうち朝ドラとかでも観ることになりそうな気がする。

 渋谷凪咲の相手役には少しもったいなかったと思う。

 

 刑事裁判については,引っかかるところがあり,殺意があったと主張し続けたために15年(それでも相場よりも長すぎる)になったというなら分からなくはないが,黙秘を貫いたせいでというのはいかがなものか

 どのように弁解しても紗月や朝子を苦しめる内容になるため黙秘を貫いたという気持ちはよく分かるのだが

 

 その点を除けば,ありふれた日常の中に潜む悲劇の種や救いが自然に描かれていて秀逸な物語である。