高校教師の清佳(永野芽郁)は,女子高生の自殺事件の報道を見て,同僚の男性教師に母親の発言のうさんくささを指摘する。

 

 母(大地真央)から愛情を注がれて育ったルミ子(戸田恵梨香)は,絵画教室で田所(三浦誠己)という男と知り合う。

 

 

 ルミ子は田所のことが好きだったわけではないが,母が彼の絵を褒めたことから交際することにし,やがてプロポーズされる。

 

 親友の仁美(中村ゆり)は,やめた方が良いと言うが,母が気に入っているため田所と結婚することにする。

 

 ルミ子は田所の母(高畑淳子)が,自分の母とは違って下品な感じがすることに戸惑うが気に入られるように努力する。

 

 ふたりは森の中に建てたかわいらしい家で理想の結婚生活を始める。

 やがて娘,清佳(落井実結子)が生まれる。

 

 

 母は家にも良く来てくれ,清佳をかわいがってくれた。

 

 

 義母との関係も上手く行き,授業参観に来た義母は清佳を誇らしかったと言ってくれる。

 

 絵に描いたような幸せな時間だったが,ある夜,それは終わりを告げる。

 母が泊まりに来て娘と一緒に寝ていた日,田所がまだ帰宅する前,激しい暴風雨の中,落雷があり,火事が起きて家が燃えてしまう。

 

 母は焼死し,ルミ子は清佳とかろうじて逃げることができた。

 

 

 家を失ったルミ子の家族は,義母の家の離れで暮らすことになる。

 

 義母はルミ子を召使いのように扱い,彼女と清佳は小さくなって生活するが,夫はそんな状況に無関心である。

 

 高校生になった清佳はそんな状況に反発し,義母や母に口答えしたりするが,ルミ子は清佳のそんな態度が許せない。

 

 

 ルミ子にとって義母であっても母に従うということは絶対だった。

 

 田所の妹,律子(山下リオ)とは,微妙な関係だったが,彼女が怪しげな男と付き合い出すと,ルミ子の義母は清佳に監視を命じる。

 だが,清佳は律子に同情し,彼女の駆け落ちの手伝いをしてしまう。

 ルミ子の義母は,怒り狂ったあげくにすっかり気落ちしてしまい認知症の症状も出始める。

 

 ある日,清佳は街で父の姿を見かけ後をつけてみる。

 すると父はルミ子の実家に入っていく。

 そこで清佳が見たのは,父と母の親友仁美の不倫現場だった。

 

 ふたりを激しく非難する清佳に,仁美は落雷の日の出来事を話す。

 落雷で庭の木が倒れ,窓ガラスを破ってタンスを倒し,祖母と清佳が下敷きになった。

 祖母は清佳に覆い被さって彼女を守っていたが,停電のために点けていたろうそくの火が燃え移り火事になる。

 そのとき,ふたりがいた部屋に助けに来たルミ子は,清佳ではなく自分の母を助けようとしたのだ。

 

 祖母は,ルミ子に娘ではなくて母親になりなさいと言うが,ルミ子は子どもはまた産めると言って言うことを聞かない。

 祖母はルミ子に自分をあきらめさせるために近くにあったハサミを首に突き刺して自殺をした。

 

 

 清佳は,自分が母の一番大切な人を奪ったと知り,これまでの母の自分に対する態度の理由を理解できたように感じる。

 

 

 呆然として帰宅した清佳が門のところで待っていたルミ子にその話をすると,彼女は清佳の首を絞めようとする。

 

 

 ルミ子はすぐに正気に戻ったが,数時間後,清佳は庭の木で首を吊る。

 ロープが切れて清佳は助かるが,意識不明のまま入院する。

 

 

 眼が覚めたとき,清佳はルミ子から久しぶりに自分の名前を呼ばれる。

 

 

 清佳はその後,高校教師になるが,女子高生の自殺報道を聞いて,その母親の発言に疑問を持つ。

 

 清佳は結婚しており,妊娠していた。

 その知らせを聞いたルミ子は喜ぶが,清佳自身は自分が母親になれるのか確信を持てない。

 

 

 

 

 湊かなえの小説の映画化で,清佳の誕生から自殺未遂までの間の出来事が,母ルミ子と清佳の双方の視点から描かれる。

 同じ場面が描かれていても,母と娘の視点からは,事実やイメージが微妙に違ったり,時には正反対だったりする。

 

 主観の曖昧さが母性というものの危うさにつながって行く。

 

 原作そのものがミスリード主体の内容のようなので,予告編もそういう面があって,ストーリーの全体像が分からないようになっている。

 

 意外だったのは,ルミ子と清佳の関係がほとんどの内容かと思いきや,登場人物それぞれの人間関係が細かく描かれており,ルミ子と清佳の関係はメインテーマの割には意外に時間が割かれていないところ。

 

 ストーリーの流れ的には,全ての元凶はルミ子の母になるところだが,彼女の振る舞いは愛情深い母親という以上に特に問題は見当たらない。

 火事になったときに自分を助けずに娘を助けなさいというところは常識中の常識で,彼女に責任を負わせるのは躊躇を感じる。

 問題があるとすれば,大地真央的な大きすぎる存在感というところだが,本人としては,そう言われても困ってしまうのでは・・・

 

 もうひとつ印象的だったのは,60年代の学生運動への批判的視点がかなり強いところ。

 清佳に痛いところを突かれた仁美が反撃として,清佳の個人的なトラウマに触れるという卑怯さは,結構,全否定に近い気がするが,1973年生まれの湊かなえが,そういう視点を持った経緯はよく分からない。

 

 戸田恵梨香と永野芽郁というとハコヅメコンビだが,こちらの映画が先で,ハコヅメはやりにくかったという。

 しかし,ハコヅメを観てもそんな感じはみじんもなく,女優さんというのはすごいなと思う。