文芸評論家の市川茂巳(稲垣吾郎)は,文芸誌編集者紗衣(中村ゆり)と夫婦だが,次の文学賞について,紗衣の担当作家荒川円(佐々木詩音)の作品よりも,新人女子高生作家の久保留亜(玉城ティナ)の作品「ラ・フランス」の方に注目している。

 

 彼の心を捉えたのは「大切なものを手に入れてもすぐ手放す」という主人公の設定だった。

 

 市川は,妻が荒川と浮気をしているのを知っていたが,その事実によって自分の心が波立たないことに戸惑っていた。

 彼自身は妻を愛しているつもりではあるが,その愛は本物ではないのかもしれないと不安に思っていた。

 

 文学賞は,やはり荒川ではなく留亜が受賞し,受賞会見に参加した市川は,核心をついた質問をして留亜に興味を持たれる。

 

 その後,留亜と個人的に会うようになった市川が,小説の主人公ににモデルがいるのか尋ねると,彼女は彼を自動車整備工の水木優二(倉悠貴)に引き合わせる。

 

 

 小説などの芸術には全く興味がなさそうで,市川と留亜の関係を疑う水木を見て市川は意外に感じる。

 

 その頃,市川は友人のスポーツ選手,有坂正嗣(若葉竜也)から現役引退の決意を告げられるが,彼は妻にはまだ話せていないと言う。

 ところが,有坂は浮気相手の人気スポーツキャスター藤沢なつ(穂志もえか)には市川の次にそれを打ち明ける。

 

 留亜は主人公のモデルはひとりではないと言って,今度は山奥で暮らす叔父のカワナベ(斉藤陽一郎)の家に市川を連れて行く。

 カワナベはかつてテレビ番組を制作していたが,すべてむなしくなったと言って世捨て人のように暮らしている。

 市川は彼に,妻の浮気に腹が立たないことを相談するが,彼は答を出さなかった。

 だが,市川のことを自分と同じで周りを見下している人間だと言う。

 

 有坂の家に招かれた市川は,妻の浮気のことを話してしまうが,腹が立たないことを言うと,有坂の妻ゆきの(志田未来)は,奥さんがかわいそうだと怒り出し,市川を追い出してしまう。

 だが,数日後,ゆきのは市川の家に来て,有坂の浮気のことを話す。

 

 

 彼女は誰が相手かまで全部知っていた。

 

 その後,市川は仕事から帰ってきた紗衣に浮気のことを知っているが,腹が立たない,自分には誰かを本気で好きになることはできないのだと思うと告げる。

 

 

 だが紗衣は,市川が小説を一作だけ書いてやめてしまったことを自分のせいだと悩んできていた。

 その小説は市川が紗衣とのことをモデルとして書いたもので,高く評価され賞も取ったが,その後,市川は二度と小説を書くことはなく,文芸評論家になったのだ。

 

 紗衣が荒川と肉体関係になったのは,スランプになった彼が筆を折ってしまわないように立ち直らせようとするあまりの行動だったようである。

 

 

 留亜からラブホテルに呼び出された市川は,彼女から水木に別れを切り出されたと相談される。

 そのラブホテルは知り合いが経営しており,小説の執筆のためにたまに部屋を借りるというが,本来の目的に使ったことはないと言う。

 一晩中相談に乗った市川は,留亜から離れて眠っていたが,翌朝,荒川から喫茶店に呼び出される。

 

 彼は2日で書いたという原稿を持っており,最高傑作が書けたが,なぜあなたが小説を書かなくなったかも分かったと言う。

 それは,書くことで過去になってしまうからだと言う。

 市川が紗衣のことを書かないのは,愛する彼女を過去にしたくないからだろうと言う。

 

 荒川のその小説は,新境地を開いたと評価されベストセラーになる。

 

 市川は水木に呼び出されて喫茶店に行く。

 水木は留亜から自分が書いた本を渡されて読むように言われたが,これはやり直したいということですかね,と尋ねる。

 市川がそうだろうねと言うと,水木は留亜に電話を掛けると言って嬉しそうに喫茶店の外に出て行く。

 

 

 市川は以前,留亜に付き合わされたフルーツパフェを注文する。

 

 

 

 

今泉力哉監督の新作。

 

 例によって「本当に好きってどういうこと?」をテーマにした作品で,いくつかの夫婦や恋人の関係が描かれるが,それと対比するような形で,相手の浮気に腹が立たないという主人公の状況は「本当に好き」ではないのか?という自問が中心になっている。

 

 周囲の人たちは,ほとんどが,それは本当に愛していないと決めつけるが,物語の中でこの問いに直接の答えが出されることはなく,むしろ,そういう愛もあるんじゃないのかなという雰囲気で終わる。

 

 今泉力哉監督は,「本当に好きってどういうこと?」というテーマの映画を何本も撮り続けているが,それだけ沢山の愛情の形があり,どれも一概には否定できないという想いがあるのだと思う。

 

 ただ,相手のあることなので,自分の愛の形が相手に理解されなければ,こういう愛もあると言ったところで空振りに終わるしかない。

 それもまた物語を生み出すきっかけになるのかもしれない。

 

 この映画も,テーマは単純だけどそれをめぐる物語は豊かでなかなか楽しめる。