怪しげな訪問販売をするブラック企業に勤め,営業の外回り中にラーメンをすすっていたシイノトモヨ(永野芽郁)は,テレビのニュースで幼なじみの親友イカガワマリコ(奈緒)が自宅マンションから飛び降り自殺をしたというニュースを見る。

 

 マリコと,彼女からシイちゃんと呼ばれていたシイノは小学生からの同級生だった。

 ふたりとも家庭は恵まれておらず,特にマリコは父(尾美としのり)から毎日,激しい暴力を受けていた。

 

 シイノが商店街の福引きで当たった花火を一緒にしようと誘うと,マリコはとても嬉しそうだったが,結局,父に理由なく,だめだと言われ,暴力を振るわれた。

 シイノはマリコの家の前で大声を出して彼女を救おうとしたが,何もできなかった。

 

 中学に入ってもマリコの父は彼女を支配し,彼女は苦しい日々を送っていたが,シイノに手紙を書くことだけが,マリコの楽しみであり,ふたりで一緒にいるときでさえ,マリコはシイノ宛ての手紙を書いていた。

 

 高校に入るとマリコは父親に犯された。

 そして,父は彼女が誘惑したからだと言い,マリコの母は家から出て行ってしまった。

 その頃,マリコはシイちゃんに彼氏ができたら私は死ぬと言っていたが,彼女自身は次から次へと彼氏を作るようになった。

 シイノはとてもそんな気持ちにはなれず,心を許すことができるのはマリコだけだった。

 

 ふたりは,不動産屋の店先でぼろアパートの広告を見ては,一緒に暮らしたいと話していた。

 「猫飼いたいなぁ」が,子どもの頃からのマリコの口癖だった。

 

 

 シイノはマリコのマンションに行ってみる。

 部屋には何もなく,片付けていた管理人に聞いてみると,彼女は直葬され,今頃,お骨になっているだろうということだった。

 

 自分のアパートに帰ったシイノはマリコのためにできることを考えたあげく,包丁を隠し持って彼女の実家に行く。

 出てきたのはキョウコ(吉田羊)という,マリコの父の再婚相手だった。

 彼女はまともな人で,シイノは再婚がもっと早ければマリコは死なずに済んだかもしれないと思った。

 

 シイノは奥の部屋で父親が見つめていたマリコの骨壺を奪うと,彼に包丁を向けて,「お前なんかに弔われてもマリコの心は安らがない」と怒鳴る。

 

 

 そして,アパートの2階の窓から飛び出し,裏手の川を渡って自宅に逃げる。

 

 ハダシで自宅に帰ったシイノはマリコの遺骨をどこに持って行こうか考えるが,父親が警察に連絡していることを心配し,取りあえずどこかに逃げようとする。

 靴をマリコの実家に置いてきてしまったので,大昔に履いていたカビだらけのドクターマーチンを出してきて,トイレの消臭スプレーをかける。

 

 中学生の頃からタバコを吸っていたシイノだったが,マリコはいつも良い匂いがするのが不思議だと言っていた。

 それは,この消臭スプレーのおかげだったのだ。

 

 財布や通帳,そしてマリコからもらった沢山の手紙を持って,遺骨と共にあてどなく家を出たシイノは,以前,マリコが「まりがおか岬」というところがあるのを知って,行きたがっていたことを思い出す。

 

 

 シイノは夜行バスに乗って,東北にある「まりがおか岬」を目指す。

 

 夜行バスの中で,マリコからの手紙を読み返したシイノは中学生の傷ついたマリコを抱きしめるように感じながら眠った。

 

 バスを降りたシイノは二人前の牛丼を頼み,ひとつを遺骨の前に供えるが,ふたつとも平らげる。

 

 

 列車に乗ったシイノは,またマリコのことを思い出す。

 高校を卒業したマリコは,次から次へとひどい男に引っかかり,シイノはマリコをそんな男から守るためにフライパンを振り回して戦ったりもした。

 

 

 だが,シイノがそうまでしてもマリコはそんな男から呼び出されるとノコノコと会いに行き,腕を折られて財布を取られるという目に遭ったりした。

 そんなマリコを叱りつけるシイノに彼女は,私はぶっ壊れている,シイちゃんが本気で心配して怒ってくれるのが嬉しい,と言うのだった。

 

 そんなことがあるたび,シイノは心の中で,マリコしかいないのは私の方だと呟く。

 

 ようやく「まりがおか岬」近くまで来たシイノだったが,バイクに乗った男に全財産を入れたリュックをひったくられてしまう。

 マリコの骨壺を置いて走って追いかけるが,途中ですれ違った釣り人(窪田正孝)が頼んだわけでもないのに骨壺を見ておいてくれる。

 

 

 結局,追いつけずに戻ってきたシイノにその釣り人は5000円を渡して,これで今日はどこかに泊まれば良いと言う。

 彼は名乗らなかったが,クーラーボックスには大きくマキオと書いてあった。

 

 その5000円を全部飲んでしまったシイノは海岸に置いてあったボートの中で眠る。

 翌朝,偶然再会したマキオは彼女のワイルドさに驚くが,歯磨きセットをくれて5000円は返さなくて良いと言う。

 

 

 シイノが自暴自棄になっていると思ったマキオは,彼女にちゃんと食べてちゃんと眠ることが大切だと言うが,シイノは,自分も友だちにそう言ったけど何の役にも立たなかったと答える。

 

 

 再び「まりがおか岬」を目指したシイノは,そこでマリコの遺骨を海に撒こうと思っていたが,自分に何も言わずに死んでしまったマリコに対する怒りがこみ上げてくる。

 シイノはマリコの遺骨に向かって,友だちが自殺するのを止められない気持ちを味わわせてやると怒鳴って海に飛び込もうとする。

 

 釣りに来ていたマキオは,それを見て慌ててシイノを止めようとするが,そのとき,近くの草むらから助けてくださいという女性の声が聞こえる。

 

 

 シイノのリュックをひったくった男が女子高生を襲っていたのだ。

 それを聞いたシイノは,追ってくる男の顔を骨壺で殴りつける。

 その勢いで骨壺が割れ,中の骨は海に散らばり,シイノと男は海に落ちる。

 

 シイノが気がつくと水際に倒れていた。

 彼女をのぞき込んだマキオは「意外と死ねないんですよここ,僕も半年前に飛び込みましたけど」と言う。

 ひったくり男も近くに倒れていた。

 

 足を痛めたシイノは病院に一晩入院するが,松葉杖をついて退院したときに警察官から,彼女が助けた女子高生からのお礼の手紙を渡される。

 

 マキオはシイノが列車に乗るまで付き添ってくれ,名物の駅弁を渡してくれる。

 そこまでしてもらってはと,一度は断ったシイノだったが,列車に乗り込むとガツガツと食べ始める。

 

 自宅に戻ったシイノは,自宅の様子が部屋を出たときと全く変わっていないことになんとなく拍子抜けする。

 会社に出勤し,迷惑をかけましたと言って退職届を出そうとするが,クソ上司は人手が足りないと言って辞めさせてはくれない。

 

 松葉杖をついたシイノは,同情につけ込むような感じで,また新しい契約を取り付ける。

 

 部屋に戻ると,ドアノブに紙袋がかかっており,中には自分の靴が入っていた。

 シイノは,キョウコさん,どんだけ良い人なんだと呟く。

 

 部屋に入って,紙袋の中を見直すと,そこにはマリコからの手紙が入っていた。

 それを読み,シイノは泣く。

 

 

 

 話題を呼んだマンガ原作を実写化したものだが,これまでのイメージを覆す永野芽郁の演技が話題になっている。

 

 「俺物語!!」から応援している自分としては,感慨深いだけではなく,彼女の演技の巧さに改めて驚かされる。

 とくに最近のドラマ「ハコヅメ」とかを思い出すと,どの演技も作り物感がなく本当にそういう人に見えるところがすごい。

 

 話としては,ガールズハードボイルドとでも言うべき内容で,シイノの図太さがとても良い。

 

 シイノがしようとしたことは,客観的に見れば,どこまで意味があることなのかもよくわからないし,死んでしまってからこんなに頑張っても,という感じもある。

 しかし,名作ハードボイルドのロンググッドバイだって,フィリップ・マーロウが意固地に頑張るのはテリー・レノックスが死んでしまってからで,それを無意味と見る人には,こういう物語の良さは分からないだろう。

 

 原作との関係でも,原則として忠実だが,分かりにくいところや不足しているところを巧みに補ってあってとても良い。

 今年の名作の一つだと思う。