高野恵(松岡茉優)は,父民生(塚本晋也)が営む町の本屋の娘だったが,薫風社という出版社で文芸部門に配属され,小説薫風の編集に携わっていた。

 

 

 彼女は,新人賞の候補として矢代聖(宮沢氷魚)の作品を推していたが,編集長江波百合子(木村佳乃)らは,その作品が斬新過ぎるとして彼女の意見を採用しなかった。

 

 

 折しも薫風社では伊庭社長が急逝し,息子の伊庭惟高(中村倫也)の社長就任までのつなぎとして東松(佐藤浩市)が社長に就任する。

 

 

 だが,彼は経営合理化推進派であり,文芸部門を初めとする不採算部門の切り捨てを進める。

 

 

 また伊庭惟高はアメリカ勤務を命じられ,東松が社長の座に居座り続けるのではないかと思われた。

 

 東松は郡司一(斎藤工)が経営する怪しげなファンドと組んで改革を進めていく。

 

 

 その一環として速見(大泉洋)という男を雑誌トリニティの編集長に据える。

 

 

 彼はいくつもの出版社を潰しながら渡り歩いてきたような男であり,社内では東松の手先として見られていた。

 

 

 その頃,高野は薫風社の主力小説家である二階堂大作(國村隼)のパーティーで,速見に乗せられて二階堂の作品に辛辣な意見を言ってしまう。

 

 

 その件や矢代の作品の件でモヤモヤする中,高野は文芸部門から雑誌トリニティの部署に移動になる。

 

 速見はトリニティの編集者たちからも胡散臭い男という目で見られるが,彼は全く気にする様子もなく,自分自身が楽しいと思えることをやれと命じる。

 

 

 そして,文芸部門でボツになった矢代の小説を連載すると決める。

 

 正体不明だった矢代はモデルのようなイケメンであり,速見が社内を案内すると女子社員がぞろぞろと後を付いてくる状態になった。

 

 

 また速見はモデルの城島咲(池田エライザ)が,ガンマニアでイラストも得意だということを見抜き,彼女に好きな分野のことを書かせる連載を決める。

 そして,矢代と城島のふたりの抜群のルックスは世間の注目を集め,トリニティに対する期待は一気に高まる。

 

 更に速見は,二階堂に対する謝罪のために高野の体を差し出したかのように見せかけ,土壇場で漫画原作者として契約する。

 

 

 こうしてトリニティが世間の注目を集める中,とんでもない事件が起こる。

 ストーカーに悩まされていた城島が,3Dプリンタで自作した拳銃でストーカーに向けて発砲し,銃刀法違反で逮捕されてしまったのだ。

 

 トリニティの発行は中止されると誰しもが思っていたが,速見と東松は発行を強行する。

 批判も強かったが話題性が大きく,ストーカーに悩まされていた城島への同情もあり,トリニティは売り切れ続出になる。

 

 

 矢代の作品については,速見が有名な文芸評論家の久谷ありさ(小林聡美)と組んで高評価を流していたため,文芸部は苦境に陥っていた。

 

 

 しかし,東松と対立する文芸畑の取締役宮藤和生(佐野史郎)と江波は,文学賞の受賞をエサに矢代を説得し,小説薫風への掲載を強行しようとする。

 

 その記者会見の席上,とんでもないことが起こる。

 矢代はその小説が自分が書いたものではないことを告白した上,宮藤らが文学賞を簡単に取らせてやると言ったことを暴露したのだ。

 

 

 こうして薫風社の文芸部門は崩壊し,小説薫風は廃刊になる。

 

 自分自身が楽しいことをやれと言われていた高野は,以前から気になっていた伝説の小説家神座詠一(リリー・フランキー)の行方を追っていた。

 薫風社は彼の最後の小説の売り上げで別館ビルを建てたが,以降,神座は筆を折り行方不明になっていた。

 高野が子どもの頃,神座の新作が彼女の実家の書店で1日早く入荷するという噂がながれ,長大な行列ができたことがあった。

 高野は,何十稿にもわたって校正された彼の最後の小説の原稿をすべて読み込み,神座の居場所を突き止めるが,間一髪,彼の操縦する小型機は高野の頭上を飛び去って行く。

 

 

 だが,矢代の騒動の際,高野は速見の大胆な仕掛けに驚かされる。

 矢代が書いたという小説が,実は神座が書いたものだということに早々に気づいていた速見は,神座に接触するとともに役者の卵だった男に作者である矢代を演じるよう依頼していたのだ。

 

 社内の対立勢力がなくなったことで東松は,書籍取次の廃止のための巨大複合施設の建設に着手しようとする。

 だが,帰国した伊庭惟高は速見とともにアマゾンとの共同事業に着手する。

 惟高の渡米はこの契約交渉のためであり,速見は彼と協力していたのである。

 

 そして,この共同事業の目玉は神座の新作の掲載だった。

 先代社長が東松に託した巨大複合施設の建設は,もはや時代遅れの構想になっていたのだ。

 

 高野は薫風社を退職する。

 

 だが,それは自分の夢を実現するためだった。

 彼女は実家の書店で,神座の新作を1冊5万円という価格で売り出す。

 神座から飛行機で轢かれそうになったお詫びとして新作発売の権利を得ていたのだ。

 

 

 手作りの高級装丁書籍は,電子書籍の時代へのアンチテーゼとして受け入れられ再び彼女の書店には長大な行列ができた。

 速見は高野にしてやられたことを悔しがる。

 

 

 

 原作小説が,大泉洋を主人公として当て書きされたことで有名な作品。

 その割には原作からかなりの改変があるようであり,原作ファンからの不満も聞かれる。

 

 原作は読んでいないので比較はできないが,映画としてかなり面白かった。

 ストーリーの展開は意外性があるものの嫌な方向に進んでいかず,楽しんで観られるのが良い。

 

 キャスティングも演技の上手い人ばかりで良かったが,池田エライザの起用がはまっている。

 多趣味な彼女自身のキャラが,この役と近い部分があって説得力がある。

 

 出版業界の裏側を描いたものとしては「響」と似ているところがあるが,「響」では良い作品は誰が読んでも良い作品であり,名前を隠しても文学に携わる人間が読めば直ぐに分かってしまうという前提で書かれている。

 ところが,この映画では,伝説の小説家神座詠一の作品に文芸部門の人間が誰も気づかず,流れ者の雑誌編集者が最初に気づき,高野も遅れて気づくということになっていて,かなりシニカルな設定になっている。

 さて,実際はどっちなのか?