露木(前原滉)の住む町は,長年にわたって川向こうの町と戦争をしている。

 町長の夏目(石橋蓮司)は,戦意高揚を謳うが,なぜ戦争しているのかは忘れましたと演説する。

 

 

 戦闘は午前9時から午後5時まで,川岸に伏せて対岸に向かって射撃をする。

 

 

 対岸からも弾は飛んでくるが滅多に当たることはない。

 

 基地内の食堂では城子(片桐はいり)が給仕をするが,彼女の自慢は息子が川上で兵士として活躍していることである。

 

 

 川上ではより戦闘が激しいらしい。

 

 ある日,滅多に当たらないはずの弾が同僚の藤間(今野浩喜)の腕に当たる。

 

 その頃,板橋(嶋田久作)が営む煮物屋では,二人組の煮物泥棒が毎日,煮物を盗んでいた。

 板橋の妻が二人組を捕らえたが,ひとりは町長の息子であり,彼が煮物泥棒の平一(清水尚弥)を捕らえたということにされ,その手柄で町長の息子は警察官になる。

 

 

 平一はちょうど徴兵され,藤間の代わりに射撃をすることになる。

 

 

 その頃,隊長の妻春子(橋本マナミ)は,子どもができないという理由でうむを言わさず離婚され,新しい妻が来ることになった。

 

 

 また,すごい部隊が来るらしいという噂が流れ,まず技術者の仁科(矢部太郎)が基地に来る。

 しかし,基地の受付は杓子定規な対応であり,仁科は丸1日基地に入ることができなかった。

 

 

 そんなとき,露木はなぜか楽隊に移動になる。

 ところが誰も楽隊の兵舎の位置を知らず,露木は基地内をさまよう。

 中には楽隊の存在自体を知らない者もいる。

 

 露木は何でも知っている煮物屋の板橋に地図を描いてもらい,その場所に行ってみる。

 

 

 板橋は警官になった町長の息子に煮物を食べられ困っていたが,平一から町長の息子はちくわが苦手だと聞いて,ちくわ屋に商売替えをする。

 

 

 露木が地図の場所に行ってみると,楽隊の兵舎は見当たらず,例のすごい部隊の隊長にお前はスパイかと言われてなんども尻を蹴られる。

 

 

 仁科はようやく基地内には入れたが,隊長に役立たずの技術者と言われてやはり尻を蹴られている。

 

 露木が建物の隙間に入り口があるのを見つけてようやく楽隊にたどり着くと半地下の狭い空間に楽隊長の伊達(きたろう)の他,男性がひとりと女性がふたり,楽団員がいた。

 

 

 伊達は女性楽団員のひとりを露骨に冷遇していた。

 

 食堂では楽団員になったことで戦争の役に立たないとして城子の待遇が悪くなる。

 城子の息子は上流で敵兵を20人殺して昇進したらしい。

 

 弾が当たって腕を失った藤間は仕事がないと困ると言って,復帰を願い出るが,受付の女性は,目は見えるか,歩けるか,十二指腸は問題ないかなど無意味な質問を丸1日続けたあげくに無理だと答える。

 

 

 藤間は春子と暮らし始めており,春子は城子の店で働き始めていた。

 

 

 露木は仕事が終わると川岸に行き,そこでトランペットを吹いた。

 実は以前から誰かが対岸でトランペットを吹いていることに気づいていたのだ。

 

 

 やがてそれが赤い服を着た女性だと分かる。

 川を挟んでふたりはトランペットの合奏をするようになる。

 

 そんなとき,平一が川を渡って対岸へ行き,戻ってきたことが話題になる。

 平一はそのことで警察に追われるが,藤間は彼をかくまう。

 平一によれば,対岸の町もこの町と何も変わらず,やはり理由も忘れた戦争を続けているのだと言う。

 

 露木が食堂に行ってみると城子が死んだようになっており,春子が切り盛りしていた。

 城子の息子は戦死したという。

 

 その頃,すごい部隊はすごい兵器を完成させ,それを試射することになる。

 楽隊長はその試射式のパレードこそが,楽隊の存在意義を示すときだと張り切る。

 

 藤間は妊娠した春子を連れて町を出て行くという。

 もっとのんびり暮らせる場所へ移るのだと言う。

 隊長の新しい妻にもいつまでたっても子どもができない。

 

 楽隊が勇ましい音楽を演奏する中,すごい兵器は基地を出て川岸に運ばれる。

 

 

 発射された弾はなかなか着弾せず,仁科は隊長に尻を蹴られるが,その直後,向こう岸では巨大な火柱が上がり,こちら側の岸まで強烈な爆風が届く。

 

 夕方になり,露木はいつもの川岸に行ってトランペットを吹いてみるが向こう岸からは何も聞こえてこない。

 ふと川面を見ると,彼女のものらしいトランペットが,流木に引っかかっていた。

 

 警察から逃げた平一は,こんな恐ろしい兵器を使うことは許されないと言い,露木もうなずく。

 平一が姿を消したしばらくのち,基地のあたりで大爆発が起こる。

 

 

 

 

 棒読みの台詞や基地の受付での不毛なやり取り,配属された筈の楽隊にたどりつけない状況などから不条理劇との評価が一般的らしい。

 確かにカフカ的な感じもあるのだが,全体的に見ると日本社会そのものであり,不条理と思われる状況も現実に存在する出来事と大差はない。

 

 現実に何の不満も言わず,ただ流されるだけで大事なものを失ってしまう露木は日本人そのもののように感じられる。

 

 ただ,タイトルからもっとホンワカした結末を想像していたので,結構,ショックである。