カノウ(伊藤沙莉)は,ごく普通に学生時代を過ごし,就活を経て就職したはずだったが,気がつくと職を失っていた。
風俗嬢になるしかないと思い,デリバリーヘルス「クレイジーバニー」に体験入店するが,本番禁止とは言え,知らないおっさんとそういうことをするのは絶対に無理だと分かり,下着姿のまま逃げ出す。
結局,彼女は雑用係として働くことになる。
この店の一番人気はマヒル(恒松祐里)だが,彼女はいつも楽しそうに笑っておりカノウにもふつうに接してくれる。
一方,気の強いアツコ(佐津川愛美)は,気に入らないことがあると誰彼かまわず当たり散らし,パワハラ店長山下(般若)ともしょっちゅう怒鳴り合っている。
山下はマヒルと関係を持っているが,マヒルは彼からもきっちりと金を取る。
彼女は,一生分の金を貯めて用務員のおじさんを雇って暮らすと言う。
キョウコ(森田想)は,スタッフの良太(田中俊介)のことが好きで,彼につきまとう。
良太は見かけはともかくとして,どう見ても頭が足りない上に風俗嬢を見下しており,キョウコに酷い態度を取るが,彼女は自分たちはクズ同士でお似合いだと思っている。
そして良太もなんだかんだと言いながら,キョウコの編んだマフラーを巻いたり,彼女が作った料理を食べて腹を下したりしている。
年上のシホ(片岡礼子)は,そんな店の状況を達観したような感じで見ている。
マヒルには妹・カズヨ(モトーラ世理奈)がおり,彼女はマヒルの生き方を気持ち悪いと言いながら,マヒルになんども金をせびる。
ふたりは母親の恋人から虐待されて暮らしてきたが,カズヨは付き合った男からも暴力を受け,さらに妊娠していた。
マヒルは自分に酷い言葉を浴びせるカズヨに笑って金を渡し,東京なんて燃えたらいいと呟く。
彼女は事務所にひとりでいたカノウに,山下と関係を持っていることや過去に母親の恋人とも関係を持っていたことを話し「たくさんのゴミためを吐き出された私はどうすればいい」と言う。
カノウは学芸会でかちかち山をやったとき,絶対に自分にはウサギの役は来ないと思って,自らタヌキに立候補したことが,今でも自分の生き方を象徴していると思っていた。
そしてマヒルこそは,ウサギの役が回ってくるような人だと思っていたのだが,彼女の内面を知って動揺する。
そんなとき,アツコと山下の対立が頂点に達するが,そのやり取りを聞いていたカノウは山下に「こんな仕事やっているからとかじゃなくて,女である時点でもうだめなんすね。好きで体を売っているわけない,好きでブスやっているわけがない」と怒鳴るが,山下に殴り倒される。
そのときアツコが持ってきた液体をまき,山下にも振りかけてライターを手にする。
騒然となる中,事務所に帰ってきたマヒルはアツコの手からライターを取り上げて,自分で火を点けようとする。
しかし,そのライターは火が点かず,マヒルは笑いながら「本気でやる気ならライターくらい用意しとかないと」と言う。
そのとき,火災報知機が鳴り響く。
誰かがビルに放火したのだ。
結局,全焼は免れ,カノウはもうひとりのスタッフ,ハギオ(池田大)と後片付けをする。
カノウがハギオにマヒルのことを好きかと聞くと,彼は,男だったら関係を持ちたいという欲望がないわけではないけど,自分もおばさんに体を売っているから,と言う。
ハギオに好意を感じていたカノウは内心でショックを受けて,どうしてその話を私にと聞く。
するとハギオは「だってカノウとはそういう感じにならなさそうじゃん」と答える。
カノウはハギオが帰った後一人で泣く。
しばらくして,街を歩いていた山下をアツコが刺す。
監督作の舞台の映画化作品。
風俗店を舞台にした作品は,テレビドラマのフルーツ宅配便とかいろいろあるけど,風俗店である以上,登場人物それぞれにそれなりの事情があり,それを描くことが中心になる。
この映画ももちろんそうなのだが,それ以上に誰もが精神の安定を保つためのよりどころを必死に探しているところに重心が置かれている。
それは風俗嬢だけでなく男性スタッフも同様だし,女性なのに雑用係という主人公カノウはなおさらである。
一番,深く描かれているのはマヒルだが,恒松裕里の演技が秀逸である。
これまでの役どころのほとんどが学生という彼女にはチャレンジングな作品だと思ったら,全裸監督2の出演が発表された。
伊藤沙莉は,やっぱりこういう役がよくはまる。