三十路のOL黒田みつ子(能年玲奈)は,お一人様を楽しんでいるが,脳内には彼女が「A」と呼ぶ別人格(中村倫也)がおり,彼女に助言したり,相談に乗ったりしてくれる。
社内では古くさい考えの男性社員にうんざりしているが,先輩のノゾミさん(臼田あさ美)が良き理解者で戦友のように支えてくれている。
ただ,ノゾミさんは男性の趣味が特殊で,イケメンだけが取り柄のカーターと呼ばれる空気が読めないナルシスト男(若林拓也)に熱を上げている。
みつ子は,取引先の営業マンである多田くん(林遣都)と変わった関係を続けている。
年下の彼は,時々,みつ子のアパートにやって来ては,おかずをもらって帰るのだ。
みつ子は彼に好意を持っており多田も同じなのだが,みつ子の家で食事をするという話が,遠慮や行き違いで変な形になって続いている。
みつ子が積極的になれないのは,2年前に行きつけの歯科医と交際しようとしたところ,彼には下心しかなかったという経験があるからだった。
そのときは,いつも頼りになるAもその男の本性を見抜けず,落ち込んでしまってしばらくはみつ子の問いかけにも答えなくなっていた。
だが,みつ子もこれではいけないと考え,思い切って多田を自宅での夕食に誘ってみる。
多田がそれに応じたため,みつ子は気合いを入れて彼をもてなすが,やはり多田は遠慮がちでふたりの仲が進展することはなかった。
そんな彼女に大学時代の親友皐月(橋本愛)から,彼女の嫁ぎ先であるイタリアに遊びに来ないかと連絡がある。
みつ子は承諾するが,旅行をしたこともない彼女は,もらい物の招待券で予行演習として温泉旅行に行く。
旅行自体は,出不精なみつ子にとって微妙な感じだったが,宴会場でのお笑いライブは楽しみだった。
彼女が会場に行くと,女性お笑い芸人の吉住が,段ボールの恋人,たっちゃんのネタをやっているところだった。
会場は大受けで,みつ子も大笑いしたが,ネタが終わった後,酔っ払った男性客がステージに上がり,吉住に抱きついたり,セクハラのようなことをする。
みつ子は会社での男性社員たちの振る舞いも思い出し,不愉快になって「止めなさい」と叫ぶが,それは彼女の心の中だけのことだった。
実際は,吉住は酔客を適当にやり過ごしていた。
落ち込んだみつ子にAが,彼女はきっとビッグになると励ます。
心の中にモヤモヤを抱えたまま,みつ子はイタリアに旅立つ。
皐月との再会や温かい家族の歓迎でみつ子の心は癒やされる。
また,イタリア観光もみつ子を楽しませた。
しかし,みつ子の心の中には,親友をおいてひとりで外国に行ってしまった皐月に対する不満もあった。
皐月もそのことは分かっており,自分自身の不安や苦しさをみつ子に打ち明け,ふたりは,より仲を深める。
イタリアにいるみつ子の元に多田からメールがあり,先日の手料理のお礼にと食事に誘われる。
みつ子がイタリアにいることに驚く多田だったが,帰国後の再会を約束する。
帰国後,みつ子はノゾミからカーターとの仲を深めるために,東京タワーを階段で登るというイベントに多田と一緒に参加して欲しいと頼まれる。
みつ子は多田に誘われた近所のフランス料理店で,その話をしてダブルデートをすることになる。
当日,ノゾミは甲斐甲斐しくカーターの我がままに付き合うが,カーターはついにもう登りたくないと言い出す。
そんなふたりを置いて,みつ子と多田は階段を登っていくが,そこで多田から告白され,ふたりはようやく付き合うことになる。
翌日,会社ではノゾミから,カーターにまずは期間限定で付き合うことをOKされたとうれしそうに報告される。
ある日,レンタカーでドライブに出たふたりは,雪のために近くのホテルに泊まることになる。
そこで抱きついてきた多田に動揺して,みつ子は,今日はそんなつもりじゃないと言うが,気まずくなり氷を取ってくると言って製氷コーナーに行く。
ささいな日常からの逸脱がすべてストレスになってしまう自分がいやになったみつ子は泣き出して「だれでもいい、だれか私をくいとめて」と言う。
うずくまった彼女が顔を上げるとそこは砂浜で,はじめてAがみつ子の前に姿を現す。
思っていたのとは多少違う小太りの男(前野朋哉)だったが,みつ子は,これくらいがちょうど良いと自分を納得させる。
ふたりはイタリア旅行の思い出などを楽しく語り合うが,みつ子は自分が根本的に他人を必要としていないことに気付いたと落ち込む。
Aは,根本的に必要じゃなくても生活にあるとうれしい存在はたくさんある,彼の喜ぶ顔が見れたらうれしい,そんなささやかな実感が,愛であり相手の心に自分の居場所をつくるのは楽しいとみつ子を諭して消えていく。
ノゾミとカーターは相変わらず付き合っており,みつ子と多田は沖縄へお泊まり旅行を計画する。
旅行当日,みつ子は出発時間ギリギリに目覚め,玄関の鍵が見当たらず慌てる。
するとAの懐かしい声が鍵の場所を教えてくれる。
能年玲奈主演作で橋本愛とのあまちゃん以来の共演作。
橋本愛がインタビューでこの映画のことを話すとき,能年玲奈のことを「のん」ではなく,きちんと「玲奈ちゃん」と呼ぶことが好感が持てる。
綿矢りさ原作小説の映画化であり,アラサー女子の揺れ動く感情を描いている。
Aの声が中村倫也なのに実体化すると前野朋哉と「トモヤ」違いなところが面白く,ちょうど良いという評価もアラサー女子の屈折した感情を良く表現している。
中村倫也がいつもそばにいると思っているほど,自分は自惚れてはいないという宛先不明の言い訳だろうか。
臼田あさ美は,架空OLとか頼りになる先輩キャラが定着してきたが,はまり役だと思うし,男の趣味が悪いとか,ちょっとした弱みがあるところも親しみが持てる。
林遣都も有村架純とやったテレビドラマと似た良い人キャラで,年上女性に好かれるパターン。
映画の撮影は,当然,大分前のことだけど,その時点で吉住の活躍を予言した結果になっているのも興味深い。
主人公の心の動きとストーリーの流れが,上手くリンクしているわけではないのでインパクトはあまり強くないけど,現実はそんなものなので悪くないと思う。
能年玲奈は,やっぱり魅力がある女優なので活躍して欲しい。