第二次大戦直前,神戸で貿易会社を経営する福原優作(高橋一生)は,従業員で甥の竹下文雄(坂東龍汰)とともに商用で満州に出向く。

 

 

 優作は貿易会社を設立する前は,船員として世界を回ったことがあり,自らコスモポリタンと称していた。

 映画が好きで,愛する妻聡子(蒼井優)を主演にして,趣味で女スパイの映画を撮ったりしていた。

 

 

 その映画は,彼の会社の忘年会で余興として上映された。

 

 

 一方,聡子の幼なじみ津森泰治(東出昌大)は,憲兵隊に入隊し軍人になったが,優作や聡子の自由な振る舞いが世の中の流れとぶつかることを危惧していた。

 

 

 実際,優作と取引があったイギリス人がスパイとして検挙されたりした。

 

 

 優作とともに帰国した文雄は,会社を辞めて小説家を目指すと言い出し,有馬温泉の宿に執筆活動のために籠もってしまった。

 

 

 一方,聡子は津森に呼び出され,優作が満州から連れ帰った草壁弘子(玄理)という女が死体で発見されたと告げられる。

 

 

 彼女は帰国後,文雄が泊まっている旅館で働き始めていたが,その後,殺されたのだ。

 

 優作の行動を不審に感じた聡子は彼を問い詰める。

 

 

 優作は,説明は出来ない,信じてもらうしかないと言い続けたが,ついに事実を話す。

 

 満州で優作と文雄は,陸軍がペスト菌を使用した化学兵器の人体実験をしていることを知り,その証人となる看護婦の草壁を連れて帰国した。

 また,人体実験の記録を克明に記録したノートがあり,それをアメリカで公表するため,文雄は英訳作業をしていたというのである。

 

 優作は聡子に協力を求めるが,聡子は家族の幸せを顧みない彼の態度に立腹し,金庫からそのノートを持ち出し,津森の元に届ける。

 

 

 津森は文雄を逮捕し,拷問にかけて自白させるが,彼は優作のことはついに口を割らなかった。

 

 

 優作は聡子を責めるが,それは軍を安心させるための聡子の策略だった。

 彼女は,優作の希望を叶えるため,そして文雄が絶対に口を割らないと信じて敢えて彼を犠牲にしたのだった。

 

 聡子はアメリカで公表するのであれば,英訳の方が良いと考え,敢えて日本語のノートを津森に渡したが,彼女は優作が更に別の証拠を握っているとも考えていた。

 実際にその通りで,優作は人体実験の内容を撮影した映画フィルムを隠し持っていた。

 

 

 その内容を見た聡子は,そのおぞましさに優作の力になることを再度誓う。

 

 優作によれば,かつて津森に検挙されたイギリス人が,中国で更に鮮明なフィルムを保管しているという。

 優作と聡子は二手に分かれて中国に渡り,そのフィルムを手にしてアメリカへ渡る計画を立てる。

 聡子は優作と離れ離れになることを不安がるが,計画をより確実に成功させるためだと説得される。

 

 ふたりは海外で通用する資金を作るために現金を貴金属などに代えるが,それは夫婦で仲良く買い物をしているような雰囲気があり,また憲兵隊の尾行に注意することはスリルがあり,ふたりはまるでスパイごっこを楽しんでいるように過ごす。

 

 

 やがて聡子が貨物船の荷物に紛れて出国する日が来る。

 フィルムを持った聡子は優作に絶対に安全だと言われて貨物の中に入るが,出国前に見つかってしまう。

 

 

 憲兵隊に連行された聡子は,このフィルムを観れば陸軍がいかに非人道的なことをしているか,誰の目に明らかだと言うが,憲兵たちは日本を貶めるために偽造されたものだろうと言う。

 そして,津森と上官たちの立ち会いの下,フィルムが上映されるが,それは聡子を主演とした女スパイの映画だった。

 津森たちは,なんでこんなものを海外に密輸しようとしたのかと呆れる。

 

 憲兵隊が聡子に気を取られている隙に,優作はひとりで海外に旅立っていった。

 彼は初めから妻を危険にさらす気はなかったのだ。

 

 戦争が激化する中,聡子は精神病院に入院させられていた。

 そこに優作や聡子と親交があった野崎医師(笹野高史)が訪ねてきて,退院させてあげようと言うが,聡子は断る。

 

 

 「みんなが狂っている今の時代で,正気を保っている私こそが,異常ですから」と

 

 戦後,優作の乗っていた船が沈没したという情報もあったが,本当の行方を知るものはいなかった。

 

 

 

 黒沢清監督作品で第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した話題作。

 

 福原夫婦が国を出し抜きながら,夫婦の間でも,互いのことを思い合って騙し合うという二重構造が面白い。

 

 憲兵隊の考えは,現在の政権にも近いところが多く,批判的な側面もあるが,東出昌大はその部分を巧みに演じている。

 いろいろあっての悪役なので,上手く割り切った感じがする。

 

 高橋一生は,こういう役が本当にはまり役だと思う。

 

 蒼井優も戦前感を出すのが上手く,本当に魅力的である。