春日高男(伊藤健太郎)は,山に囲まれた地方都市に住む平凡な中学二年生だが,ボードレールの「悪の華」を読み,自分には何か他の連中と違うものがあると思っている。

 

 

 しかし,彼が好きになったのは,ごく普通に男子全員の憧れの的である佐伯奈々子(秋田汐梨)だった。

 彼女は優等生だったが,その体からは大人の雰囲気が漂い始めており,男子の妄想の対象にもなっていた。

 

 

 一方,高男の後ろの席の仲村佐和(玉城ティナ)は,テストを白紙で出して教師を目の前でクソムシと罵倒した。

 

 

 ある日の放課後,高男が誰もいない教室に戻ると,佐伯の体操着袋が床に落ちていた。

 彼は思わずブルマーの匂いを嗅いでしまうが,そのとき物音がする。

 

 

 驚いた高男はそのまま佐伯の体操着を家に持ち帰ってしまう。

 

 翌朝,高男はきちんと説明して佐伯に体操着を返そうと決意して登校するが,既に大騒ぎとなっており,とても言い出せる雰囲気ではなかった。

 

 だが,その日,高男は佐和にお前が体操着を盗むところを見ていたと言われ,無理矢理佐伯の体操着を着せられた上,変態と罵られる。

 

 

 そして,秘密を黙っている代わりに言うことを聞けと命じられる。

 

 翌日,教室で財布がなくなったという騒ぎが起き,日頃の行いから佐和が疑われる。

 高男は彼女に自分の秘密を暴露されることを恐れ,証拠もないのにそんなことを言うべきではないと言う。

 結局,財布は,なくなったという生徒の鞄の中から見つかったが,意外なことに佐伯がこの騒ぎで高男に好意を示すことになる。

 

 そしてふたりで会うことになるが,佐和は高男に初めてのデートで佐伯にキスをしろと命令する。

 

 佐和の監視の下,佐伯とデートした高男は公園で良いムードになるが,「プラトニックな交際をして下さい」と告白し,佐伯はそれをOKする。

 

 

 激昂した佐和は,隠れて監視していた物陰から出て行き,持っていたコーラを高男のシャツにかける。

 高男は佐和に命じられて,シャツの下に佐伯の体操着を着ていた。

 シャツが透けて佐伯のゼッケンが見えたのに気づいた高男は必死に胸を隠して逃げ帰る。

 

 翌日,佐和は佐伯と友達になったと高男に告げる。

 高男は佐和が佐伯に何を言うのか怯えるが,佐伯は佐和に相手が変態だと分かっても付き合えるのかと聞かれて,理解しようとすると答える。

 

 

 その後,学校に来なくなった佐和を心配して高男が彼女の家に行ってみると,父親(高橋和也)が出て来て,妻と離婚して以来,娘の気持ちが理解できずに困っていると話す。

 佐和の部屋の入り口には,父親に向けて,絶対に入るなと大きく書かれていた。

 高男が入ってみると,部屋の中は世の中に対する呪いの言葉で埋め尽くされていた。

 引き出しの中に見えたノートを開いてみると,やはり同じような言葉が並んでいたが,高男のことを「変態の仲間を見つけた」「自分だけではなかった」と喜びの言葉とともに書き記していた。

 しかし,自分が佐伯と付き合うようになってからは,ノートには何も書かれなくなっていた。

 

 そこに佐和が帰ってきて大暴れするが,高男は彼女の本当の気持ちに触れたように感じ,彼女に従うことを誓う。

 

 

 そして,深夜の学校にふたりで忍び込み,黒板に自分が変態だと殴り書きをし,墨汁をまき散らして帰る。

 

 

 翌朝,自分のすべてが終わると覚悟して登校した高男だったが,黒板に書いた自分の名前の部分はいつの間にか墨汁で塗りつぶされており,誰がやったのかは分からなくなっていた。

 

 高男は今度は,水泳の授業中に女子更衣室に忍び込み,佐伯以外の全員のパンツを盗む。

 だが,佐伯は友達に尋ねられて自分も盗まれたと答えるしかなかった。

 

 佐和が高男とふたりの秘密基地に行ってみると,女子のパンツが洗濯物のようにロープに吊されていた。

 私のパンツまで盗みやがってと言いながら,なぜ佐伯のは盗まなかった?と聞く佐和に,高男は,それが彼女にとっていちばん酷いことだからと答える。

 

 

 高男は盗んだパンツの一部を校内の銅像の頭にかぶせたりして更に騒ぎを煽る。

 

 その頃になると,佐伯は自分と付き合っているはずの高男が佐和と心を通じていることに気づき,嫉妬に狂う。

 

 

 そして,高男だけがいるときに秘密基地に忍び込み,彼の前で服を脱いで誘惑するが,高男は応じなかった。

 しばらくして,高男と佐和は秘密基地が燃え上がっているのを見る。

 

 高校生になった高男は,本屋で「悪の華」を手に取っていた常磐文(飯豊まりえ)に思わず話しかけてしまう。

 

 

 高男は中学時代とは全く別の場所に引っ越していた。

 文が小説を書いていることを知った高男は,彼女の創作活動を応援する。

 

 ある日,文と高男が歩いていると,偶然に佐伯と出会う。

 佐伯は彼氏と一緒だったが,高男に「また誰かを不幸にするの?」と言う。

 

 

 この出来事から,文は高男の中学時代を知りたがる。

 高男は,とても口で説明できるような話ではないと言って文章にしてくると言う。

 

 高男はノートに中学時代のできごとを必死に綴っていく。

 秘密基地が燃やされた後,高男と佐和はある計画を立てる。

 街のお祭りの盆踊り櫓の上で,ふたりで焼身自殺をするという計画だった。

 地元のテレビ局の中継も入るお祭りで,ふたりは櫓の上で灯油をかぶり,高男はライターに火を付ける。

 

 

 心療内科に通院していた佐伯は,病院の待合室のテレビでその様子を見ていた。

 

 だが,佐和は櫓の上から高男を突き落とし,自らライターに火を付けようとする。

 しかし,ライターに火が着く直前に,佐和の父親が彼女に飛び付く。

 

 このノートを読んだ文は,佐和は今どうしているのか?と聞くが,高男はその後,彼女と会っておらず,どこにいるのかも知らなかった。

 文は,絶対に佐和に会いに行くべきだと言うが,高男の元に佐伯から佐和の居場所を知らせるラインが来る。

 

 彼女は,母親の経営する海辺の食堂を手伝っていた。

文とともに佐和に会いに行った高男はぎこちない態度で話をする。

 

 

 3人で海辺で話す内,3人とも海に入って持て余す感情を発散するかのように暴れ回る。

 

 

 映画館で観たかったが上映期間が短く,見逃してしまった作品がネトフリに上がったので鑑賞。

 

 高男と佐和の行動はかなり極端だが,心情的には誰の中にもあるようなもので,理解できないものではない。

 ラストシーンで,表紙のイラストに描かれた悪の華が,また,別の女子に目を付けるところも,それを暗示している。

 

 実際,いちばん現実的にエキセントリックなのは優等生の佐伯じゃないかとも感じる。

 

 伊藤健太郎をはじめとして,主要登場人物はだれも中学生には見えないけど,リアル中学生に演じさせることができる内容ではないので仕方がない。

 玉城ティナも秋田汐梨もその後のテレビドラマで似たような雰囲気の役をやっているところも面白い。

 

 押見修造作品なのだが「スイートプールサイド」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「ぼくは麻理のなか」という自分の心の中に強く残った作品がどれも彼の原作というところが驚く。

 内容はバリエーションに富んでいて,決して同じような話ではないのだが。