岩松翔太(村上虹郎)は,和歌山の田舎から出てきた東京に住む売れない劇団員だが,オレオレ詐欺の受け子をやって生活費を稼いでいる。

 劇団内での評価も低く,無目的な生活が続いている。

 

 高校の文化祭で作った自主映画が役者になりたいと思うきっかけだったが,その後,誰の記憶にも残ることはできていない。

 

 ある日,和歌山の田舎にある老人ホームで演劇指導をすることになり,劇団員全員で電車を乗り継いで和歌山まで行く。

 しかし,練習初日に倒れて亡くなる入居者が出て劇の上演が危ぶまれる。

 

 そのホームで働いてる山下タカラ(芋生悠)は,地元の高校を中退後,ここで働くようになったが,最近来たある通知に怯えていた。

 それは彼女に対する強姦致傷罪で服役していた大久保建治(山本浩司)が近く,出所するという法務省からの通知だった。

 

 

 翔太は,タカラたちが大変な仕事をしているのに報われていないことに複雑な思いを描く。

 劇団員たちはお祭りにタカラを誘うことにし,翔太が彼女を迎えに行く。

 

 しかし,彼が部屋に着くと,タカラは大久保に犯されていた。

 翔太が大久保を引き離すと,大久保は翔太にも殴りかかるが,タカラはハサミで大久保を刺す。

 動かなくなった大久保を見た翔太は救急車を呼ぼうとするが,タカラはそれを止め,この男は自分の父親だと話す。

 それを聞いた翔太は,思わずタカラの手を引き,その場から逃げ出す。

 

 

 村を駆け抜け,駅に着き,電車に乗り込んだ翔太にタカラはホームから,やっぱり警察に行くと言う。

 

 

 しかし,翔太はいつもそんな目に遭って,それで良いのかと言って彼女とともに和歌山市内を目指す。

 

 

 既に廃校になった翔太の出身校に泊まり,その後,梅干し農家の手伝いをしてお金を稼ぐが,翔太は深夜にその家から金を盗もうとして主人に見つかる。

 

 

 見逃してくれと言う翔太に主人は,自分からは逃げられないと言う。

 早朝にふたりはその家を逃げ出し,その後,警察が来る。

 何か盗られたものはと聞く警察に,主人は何も盗られていないと答える。

 警察は,一体何のために逃げているのかと訝る。

 

 

 和歌山市内に入り,ふたりはどうにか生活費を稼ごうとし,タカラはスナックでアルバイトをするが,翔太はパチンコで稼ぐ。

 アルバイト代をもらって,ちゃんと働くのは良いことだと喜ぶタカラに翔太はパチンコで取ったマニュキュアを渡しそびれる。

 

 その頃,ニュースで大久保が死んでいないことを知り,ふたりは少し安堵する。

 

 しかし,その後,翔太はギャンブルで外しまくって金がなくなり,タカラも警察の捜査が進んで働けなくなる。

 

 

 ふたりで軽自動車の中に潜んでいるとき,警察官に職務質問されるが,翔太はカーセックス中のカップルを装うが,タカラは様子がおかしくなり逃げ出す。

 彼女は父親のトラウマでセックスに対する恐怖症になっていた。

 

 こうしてふたりの心に距離が生まれ,翔太は自分は巻き込まれただけだと言い出す。

 しかもニュースで大久保の死が伝えられ,タカラはひとりで公園で寝る。

 

 彼女は,老人ホームで入居者たちが演じるはずだった安珍清姫の劇を自分と翔太が演じる幻を見る。

 翔太が幻だったと気づいたとき,本物の翔太が迎えに来る。

 

 

 なんとかホテルに泊まったふたりだったが,やはりセックスはできなかった。

 

 翌朝,目を覚ましたタカラは自分の指にマニュキュアが塗られていることに気づき,警察に見つからないように電源を切っていた携帯の電源を入れる。

 

 ふたりでフェリーに乗ろうとしていたとき,警察が来る。

 

 

 翔太はタカラの手を引いて走るが,途中で彼女は止まり,たくさんの人の心に残る演技をして欲しいと言って警察に捕まる。

 

 しばらく後,普通に働き始めた翔太は,高校の文化祭で撮った映画を見返してみる。

 自分が演じていた男は,辛いときはこうやって笑顔を作ると言って,頬を指でなでていた。

 それは,タカラが入居者に言っていたのと全く同じ言葉と動作だった。

 

 タカラは翔太と同じ高校で,父親が自分に対する強姦致傷罪で逮捕されて中退するその日に,彼が映画を撮っているのを観ていたのだった。

 翔太の演技は,少なくともタカラの心の中には残り続けていたのだった。

 

 

 

 

 豊原功補と小泉今日子のプロデュース作品

 

 村上虹郎は苦手だが,芋生悠は好きなので鑑賞。

 

 逃げる必要もなかったのに,はずみで逃げ出した男女の物語だが,逃げるという気持ちにならざるを得なかったところをもう少し丁寧に描かないと,終始,逃げなくても良いのにという気持ちで観なくてはならず他の部分が入って来にくい。

 

 感情を揺さぶるようないろいろな出来事が起きても,そもそも逃げなくても良いのにと思ってしまう。

 

 せっかく,それなりに感動的なオチがあるのにもったいない。

 

 また,翔太のオレオレ詐欺の始末の付け方が何もないのも気になるし,タカラの現在も描いて欲しかった。

 

 芋生悠は,「恋するふたり」とは全くイメージが違い,演技の幅を感じるけど,この内容だったら気楽に見れる「恋するふたり」の方が良いな。