新聞社に勤務する坂町晴彦(中井貴一)の元を唐突に訪れた女子大生戸沢美枝(波瑠)は,マスターズ甲子園の事務局をしており,元高校球児の坂町に出身校の野球部OBへの呼びかけを依頼する。
 しかも,彼女の父はかつて坂町の同級生だった野球部員だったという。
 彼女の父は,野球部員全員への年賀状を毎年書いては出さずにいたが,去年,震災で亡くなっていた。

 坂町は美枝に,当時の野球部は,彼女の父が起こした傷害事件で地方予選決勝を辞退したことを明かし,一応協力するが,部員たちは複雑な気持ちでいることを伝える。




 案の定,当時のエースだった高橋直之(柳葉敏郎)に出場を頼みに行ったときも,美枝の父親のせいで人生が狂ったとまで言われる。
 帰り際に泣き出してしまった美枝の背中を見た坂町は,離婚の時に自分が見捨てたような形になってしまった娘,沙奈美(門脇麦)を思い出し,高橋の家に戻ると,彼と大げんかをする。

 しかし,高橋はかつて野球を教えていた自分の娘にその態度を責められ,坂町に協力を申し出る。




 協力者が増え,予選の初戦を勝ち抜いたOBだったが,祝勝会でOB会会長の柳田健司(西岡徳馬)が美枝の素性を知り,激怒する。
 そして,彼女の父が,当時の女子マネージャーを妊娠させ,中絶費用のために他校の生徒を恐喝したんだと怒鳴る。

 ショックを受けた美枝を自宅に連れ帰った坂町は,自分が離婚した理由や,娘を手放した理由を美枝に話す。
 美枝は,坂町が父親の事件の詳細を隠していたことも,自分の娘に対して本当の気持ちを伝えなかったことも,ずるいと非難する。

 予選の2回戦を勝利したチームの前に,かつてマネージャーだった立原裕子(和久井映見)が現れ,事件の真相を話す。




 地方予選の決勝戦の相手は,かつて戦うことさえできなかった相手だった。
 立原裕子をマネージャーとしてベンチに入れたチームは,美枝や高橋の娘たちの見守る中,念願の甲子園出場を果す。
 甲子園での試合の後,自分の大切な人とキャッチボールをするというイベントがあるが,美枝と約束をしていた坂町の前に現れたのは沙奈美だった。




 ストーリーそのものは,単純ではないが,ありがちと言えばありがちなものであるし,結末も普通の人の予想を裏切るようなものではない。
 しかし,さすがに重松清であり,極めて巧みに物語が進んでいき,全く退屈に感じさせないし,要所要所で涙を誘う。

 一方,坂町と高橋のケンカはコミカルで,中井貴一と柳葉敏郎の名演技が光る。

 また,物語を進めるのは,結局,美枝や高橋の娘,立原裕子,沙奈美といった女性たちであり,いい年して子どもみたいな男たちを後押しして,過去へのこだわりを捨てさせる役目を担っているのが面白い。結局,男たちだけでは何もできないというところにメッセージがあるのか。

 この物語では,主人公である坂町のヒーロー的な活躍がないところも渋いと言えば渋い。
 美枝に自分の娘を重ね合わせ,大人として優しく接するところと,試合ではチャンスで必ずバント,甲子園の最後の打席では三振というところの対比も面白い。

 そして,この映画を観に行った最大の理由である波瑠の演技が素晴らしかったことにも満足。
 前作,「がじまる食堂の恋」がストーリー的に残念だっただけに嬉しい。