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 映画冒頭,電車で秋葉原に来たひかり(蓮佛美沙子)が,人で溢れる街をただ歩き続けるシーンが延々と流れる。
 やがてひかりはガードレールに腰掛けるが,彼女の頭の中では,実際には存在しない怒号や救急車のサイレンの音が鳴っている。

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 秋葉原の人たちの写真を撮っているという女性カメラマン沙紀(中村麻美)が,ひかりに話しかける。沙紀はひかりの話を聞きながら写真を撮るが,その内,彼氏の話を聞く。ひかりは,電気オタクの彼,健治の話をするが,彼が無差別殺人事件で死んだことを聞いた沙紀は立ちすくんでしまう。

 ひかりは事件の後,自宅から出ることが出来なくなるが,3年経ってようやく,外出ができるようになると,あてもなく秋葉原の街を歩き続けるようになった。

 健治とよく行ったビルの屋上で,偶然,無差別殺人犯にレンタカー屋を紹介して罪の意識に苦しむ尾崎という男(柄本時生)と出会ったり,曲に感動したストリートミュージシャン(Quinka, with a Yawn)と話をしたり,久しぶりに会った高校の同級生まりあ(尾高杏奈)がAVに出ていると聞いて驚いたりと,様々な出来事に出会う。

 そしてメイドカフェのスカウトマン修(田口トモロヲ)に声を掛けられたひかりはメイドカフェで働いてみることにする。

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 ひかりは,先輩メイド桃(菜葉菜)に,いつも秋葉原に来ていることを見られていて,ゾンビのようだと言われる。

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 修からは,人は現実を見ずに済むように目的地を決めて走り続け,その目的地に着くとまた新たな目的地を決めるという話を聞く。

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 メイドカフェをすぐに辞めたひかりは,秋葉原の街を健治を知る人を探して走り回る。

 そしてジャンクパーツを運んでいる佑二(小林ユウキチ)出会う。
 佑二は,はじめ,健治のことを知らないといっていたが,彼が無差別殺人事件で死んだこと,ひかりが彼の恋人だったことを知った佑二は,健治の想い出を話してくれる。
 ひかりは,健治がかつて言っていた「ここにいる自分ではない自分がどこかにいる気がする」という言葉がやっと分かった気がする,と言う。

 ひかりと街を歩いていた佑二が,震災の映像を映し出すテレビを指さし,これが自分の現実だという。父親に反発し,早く死ねと言って家を出てきたが,震災があり,連絡も取れない。何が現実なのか分からないという。

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 受け入れることの出来ない現実に直面した二人の若者が,カーブミラーに自分たちを映し,自分たちが現実に存在することを確かめるシーンが印象的である。
 あなたはまだ間に合うとひかりに言われ,被災地に向かう佑二。
 被災地を延々と歩き続ける佑二の映像は,この映画の冒頭で,ひかりが秋葉原の街を歩き続けるシーンと重なる。

 夜になり,ひかりはかつて健治と一緒に乗ることを約束した東京の川をめぐる遊覧船に乗る。
 沙紀にもらった写真,桃にもらったマニキュア,修に貰ったポラロイド写真,佑二に貰ったジャンクパーツ・・・
 遊覧船のテーブルの上に,これらの物を並べていくひかり。
 それぞれ何のつながりも無い物だけど,暗い夜の川から見上げる東京の街の景色の中で,ひかりにとっては,その想い出が少しずつ自分を現実に近づけてくれるのである。

 この映画は,脈絡の無いエピソードの積み重ねによって構成されているが,その脈絡の無さが,逆にリアリティを生んでいる。
 受け入れることのできない現実に直面したひかりの心が,これらのエピソードの総量が目に見えないあるラインを超えたときに,初めて前を向いて動き出し,それぞれのエピソードが時を遡るように意味を持ち始める。
 すばらしい構成だと思うし,極めて限られた劇場でしか上映されていない映画なのにキャストも意外に豪華である。
 田口トモロヲ演じる修は,どのような人生を経て,メイドカフェのスカウトマンになったのか,ものすごく気になるような良い演技だし,大好きなテレビドラマQ10で共演した柄本時生との共演も嬉しい。

 何より,大ファンである蓮佛美沙子ちゃんの主演作が観れること,そして,その演技が素晴らしかったことに大満足である。
 自分にとっては,今年一番の感動作だった。