$JUNO106のブログ

 恒夫(妻夫木聡)は,気楽な今どきの大学生であり,同級生のノリコ(江口のりこ) と体の関係を続けながら,彼女に胸がでかいよ,やれるかもしれないよ,とそそのかされて彼と別れたばかりの香苗(上野樹里)とも付き合おうとしている。

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 恒夫がバイトをしている雀荘で,夜明けに乳母車を押す不気味な老婆の噂が流れる。ある者は大金を運んでいると言い,ある者はヤクを運んでいると言う。恒夫はふざけて死んだ孫のミイラを運んでいるのでは,と言う。
 ある明け方,恒夫が店長の犬を散歩させていると,下り坂を猛スピードで乳母車が走って行き突き当たりにぶつかりひっくり返る。坂の上では老婆が叫んでいる。恒夫が乳母車に近づくと中にいたのは足の不自由な少女くみ子だった。雀荘の馬鹿な客が乳母車の中を確かめようとして老婆を襲ったのだ。
 恒夫は,くみ子たちを家まで送る。彼はいかにも貧しそうな長屋を見て,朝飯を食べていけという老婆の言葉にひるむ。しかし家の中は意外に小綺麗に片付いており,くみ子の作る食事はありふれたものだが,見た目も良く,とても美味しかった。
 こうして恒夫はくみ子の料理を目当てに彼女の家に通うようになる。彼女は足が不自由で外を出歩くことが無いだけではなく,彼女の存在を恥じ,隠そうとする祖母のせいで学校に通ったこともない。しかし,祖母がゴミ捨て場から拾ってくる種々雑多な書物をすべて読破し,極めて博識である。性格は気が強く,口の悪い皮肉屋である。彼女の読書範囲は,教科書から実録やくざ雑誌,サガン,SM雑誌とむちゃくちゃである。くみ子は自分のことをサガンの「一年ののち」の主人公になぞらえてジョゼと名乗っている。恒夫が「一年ののち」の続編を古本屋で探して彼女にあげたことから彼女は心を許し始める。

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 恒夫とジョゼは,祖母の目を盗んで昼間の街を乳母車で走るが,ジョゼは調子に乗りすぎた恒夫に乳母車ごと土手から落とされてしまう。「殺す気か!」というダチョウ倶楽部のようなつっこみのあと,空を見上げて「あの雲,持って帰りたいなぁ」と言う。彼女の純粋な心が垣間見える瞬間である。

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 しかし,香苗の存在を知ったジョゼは精神的に不安定になる。恒夫はジョゼの祖母から家に来ることを禁じられ,香苗と付き合うようになり,やがて就職活動も始める。
 就職活動中にジョゼの祖母が亡くなったことを知った恒夫は,いてもたってもいられなくなり,ジョゼの家を訪ねる。
 そこで互いに離れることができないことを確かめ合い,恒夫はジョゼの家に同居するようになる。

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 やがて恒夫はジョゼとの結婚を考え,彼女を連れて実家の法事に連れて行こうとする。
 しかし彼女の人生を背負い続けることに途中でひるんでしまい,戻ってくる。
 それでも数ヶ月は付き合った後,ふたりは本当に別れる。
 この映画は,恒夫がジョゼを連れて実家に帰ろうとしたときに途中までに撮った写真を見ながら彼が回想をする形で始まる。

 恒夫の自分の欲望に正直な軽いキャラが面白い。
 ノリコに「香苗とやれるかもしれないよ,あの娘,胸デカいよ」と言われた時や,ジョゼに「あんたの思いつく一番やらしいことしてもええで」と言われた時の嬉しそうな顔とそれを隠そうとしないところが面白い。
 また,なんと言っても素晴らしいのが,ジョゼの深みのある人物像と,それを見事に演じきった池脇千鶴の演技である。
 恒夫との関係も,彼を愛する一方で最後までの期待はしていない。彼が実家に行こうと言いだした話を聞いて,かつて同じ施設にいた男は結婚の申し込みに違いないと言うが,ジョゼはそんなことあるわけないと言う。結局,恒夫が実家へ帰る途中でひるんでしまい戻ってしまうが,その途中で寄ったラブホテルで彼女は言う。「あんたに会う前のうちは,音も光もない真っ暗な世界にひとりでおった。」恒夫はたずねる。「寂しかった?」「自分しかおらへんし何にも見えへんから寂しないよ。そやけど,あんたがうちを明るい世界に引っぱり上げてくれた。あんたに捨てられても,もう元の世界には戻られへん。貝のようにひとりで海底をコロコロと転がるんや。そやけど,それもまた良しや。」

 この様に聞くと恒夫がいかにもいい加減な男でジョゼを傷つけたように感じるが,恒夫のジョゼに対する気持ちがいい加減なものだというわけではない。そしてこの映画の中では,恒夫が,彼女の人生を背負いきれないと思ってしまったことを非難するような雰囲気はない。その一方で,恒夫は彼女との別れに泣き崩れる。人生が単純な善悪で割り切れるようなものではないことを感じさせる。
 恒夫と別れてひとりで暮らすようになったジョゼは,今や電動車いすを使うようになり,今日も街を疾走している。
 このエンディングが素晴らしい。

 近所の名画館で観たが2003年の映画だから,もうかなり前の映画だけど本当に傑作だと思う。