ノルウェーの森

今まで私のブログには、基本的に気に入った作品のことだけを書いて、あまり批判めいたことは書かなかったのですが、なんとなく、この映画について書くことを期待されているような気がする(気のせいでしょうが)ので、あえて批判を含めて書いてみます。

ひとことで言うとテーマに向かって、真面目に突っ込んで行き過ぎて、重くて苦しい作品になってしまった感じがする映画である。

原作では、直子への手紙で、突撃隊のことを面白おかしく伝えるところが、読者に対しても物語の世界に入り易くする働きをしているが、せっかく柄本時生を突撃隊に配役しながら、そのくだりが全く無いというのはとても残念だし、この映画の世界に入りづらくしている。

また、一番肝心なところでは、渡辺が直子を支えようとする理由がはっきり描かれてないので、ストーリーに入り込みにくいところが問題だと思う。

渡辺は、キズキと直子の三人で過ごした青春時代をとても大切な思い出にしていた。しかしキズキの謎の自殺で、その楽しかった日々が見せかけのものだったのでは無いのかという疑問に苦しめられている。そこに現れた直子が、精神的に壊れてしまうと渡辺自身の世界が崩壊してしまう。だからこそ、初めのうちは、渡辺は、直子の心を支えようとし、そこから直子との新たな物語が始まっていく。
ところが、この映画では、三人で過ごした時代のことがきちんと描かれておらず、そのせいで渡辺は、単に自殺した親友の彼女を好きになった男になってしまっている。

また、緑との出会いは、過去に捕らわれた渡辺に、新しい世界への予感を感じさせるもので、最初はもっと軽く描いても良かったのではないかと思う。

なんだかこの映画は、女性を傷つける地雷がたくさん埋まった地雷原を恐る恐る歩いて行き、それでも何回も地雷を踏んでしまう男の物語のように感じられる。

あと、渡辺とレイコの療養所でのやり取りや、彼女が療養所に入ることになった理由が省略されている(時間的に無理だと思うけど)ので、彼女との最後のくだりは、映画だけでは理由が分からないと思う。

映像表現とか、良いと思えるところはたくさんある映画だが、真面目過ぎて暗いのが、本当に残念である。
村上春樹の小説は、そう言うところばかりではないのに。