貴子(菊池亜希子)は一年半付き合った会社の先輩から,突然,別の同僚と結婚すると言われ,ショックで会社を辞めてしまう。
 心配した母親の紹介で,叔父サトル(内藤剛志)の古書店の二階に住み,時々手伝いをする暮らしを始める。

$JUNO106のブログ


 神田神保町での暮らしは,いろいろな人たちや,いままで知らなかった本の世界との出会いがあり,穏やかに流れて行く。その暮らしの中で,貴子は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
 貴子が出会う本の世界や,古書店の世界は,読書好き,本好きの人間にはとても魅力的に映る。また,常連客役の岩松了が相変わらずいい味を出している。

 いつまでもここにいて良いよ,というサトルに,貴子はなぜそんなに親切にしてくれるのか尋ねる。
 サトルは仕事がうまくいかず,生き方がわからなくなった時に姉さんに赤ちゃんが生まれて,その子を見ているうちに,また,生きる希望が湧いてきた,だから,貴子は僕の天使なんだよ。と言う。

 しかし,仕事中に偶然,彼を見かけた貴子は,また,落ち込んでしまう。
 心配して事情を尋ねるサトルに貴子は,やっとの思いで,会社で有ったことを伝える。
 それを聞いたサトルは,彼に謝罪させようと言い出して貴子を連れて彼の家へ行く。
 サトルは,彼に,自分がひどいことをしたことを認めて,彼女に謝罪するよう求めるが,彼は相手にせず,それは本当に貴子の意志かと言う。今まで,彼に何も言えなかった貴子はサトルに促されて,初めて,自分が傷ついたことを訴える。
 結局,彼はそれでも謝罪しなかったが,貴子は初めて自分の気持ちをはっきり言えたことで,再び歩き出す勇気を取り戻す。

 この映画は,舞台もストーリーも,とても,こじんまりとした作品であるが,人が生きて行く上では,そういうすごく小さなことも大切だと言うことを教えてくれる。

 サトルが生まれたばかりの貴子を見て,ただそれだけで,生きる希望を取り戻したという話は,赤ん坊の生命力を感じたことのない人には理解しにくいかも知れないが,私にはその感覚が,とても良く分かった。

 また,サトルが貴子を連れて彼の家に行くという展開は,それまでの淡々としたこの映画の雰囲気からは少し意外な流れである。
 しかし,サトルが彼に言った言葉や,それまでの貴子への態度から,貴子は何があっても自分の味方をしてくれる人がそばにいてくれるという安心感から,初めて自分の素直な気持ちを口に出す勇気を持つことができたのである。そしてそのおかげで,やっと新たな一歩を踏み出す勇気を持つことができた。
 こういう人が,誰かひとりでもいてくれると言うことが,生きていく上で,本当に力になるということが良く分かる。

 サトルは貴子から,貴子はサトルから,お互いに生きる力を貰ったのだ。

 とても暖かくて良い映画だと思う。