「いけちゃんとぼく」は,西原理恵子の絵本を実写化した映画である。

 主人公ヨシオ(深澤嵐)は,漁村で,へたれの父親茂幸(萩原聖人)としっかり者の母親美津子(ともさかりえ)と暮らす小学生の男の子。西原原作なので,例によって家は貧しい。

 ヨシオは毎日2人のガキ大将たけしとヤスに殴られている。
 クラスの全員が泣いたのにヨシオだけはどんなに殴っても泣かないからである。
 ヨシオの父親は,ヨシオが網元の息子であるたけしとヤスにいじめられていることを知り,文句を言うといって家を飛び出したものの,網元たちの直前でUターンしてくるほどのヘタレ男だが,浮気相手の家の前のどぶにはまって死ぬ。

 ヨシオは牛乳屋の親父に空手を習ったりするが,どうしてもたけしとヤスには勝てない。

 ある日ヨシオは,父親の浮気相手を見ようと隣の隣の隣町に行くが,帰りに隣町の不良たちに絡まれる。
 そして,隣町の不良たちがヨシオたちの町にやってきて,自分たちの町の空き地が宅地開発で無くなったので,これからはここを使うと言い出す。

 たけしとヤスが立ち向かうが,2対9ではかなわず,やられてしまう。
 自分がどんなに頑張っても勝てなかったたけしとヤスがやられてしまった光景を見たヨシオは父親の言葉を思い出す。どんなに強い奴でも上には上がある。強い奴を言い出したら核兵器や宇宙人,恐怖の大王までいってしまう。
 けんかでは勝てないと考えたヨシオは,隣町の不良たちに野球での勝負を挑む。

 翌日,野球の試合が始まり,ヨシオたちが有利に試合が進むが,途中から乱闘になり,警察沙汰になってしまう。
 さんざん警察や大人たちに絞られて,引上げて行こうとする隣町の不良たちに,ヨシオは,明日もここで野球の続きをやろうと言う。
 こうして,ヨシオはひとつ大人になる。

 この物語は,生い立ちや家庭の事情で,人よりも早く大人にならなければならない子供たちの物語である。

 この物語を両側から支え,豊かなものにしているのが,蒼井優が声を担当した不思議な生き物「いけちゃん」と,蓮佛美沙子が演じた不思議なお姉さん「みさこ」である。

 いけちゃんは,漫画の吹き出しのような形をした生き物で,他人には見えないけど,ヨシオが物心ついたときから側にいて,ヨシオの話し相手や,遊び相手になり,ヨシオに突っ込んだり,ヨシオを慰めたりする。
 だけど,ヨシオの心が成長するにつれて,だんだん見えなくなっていってしまう。
 物語の最後にその正体が明らかにされる。

 一方,蓮佛美沙子が演じた「みさこ」は,隣に住む女子高生のお姉さんであり,清楚で美しく優しい,ヨシオのあこがれの存在である。
 ヨシオがみさこにぼおーっとしているところを見て,ヤキモチを焼いたことから,いけちゃんが女だということが分かる。

 ところが,このみさこ,今までは本当の自分の気持ちを隠していたと言って,突然,派手派手,ケバケバのヤンキーに変身して,ヤンキー男(柄本時生)と真っ赤なオープンカーで田舎町を爆走する。
 ヨシオに対しては相変わらず優しく,隣町の不良たちに絡まれていたときにも助けてくれるが,ヨシオはすっかり幻滅してしまう。

 みさこは,駆け落ちすると言って,ヤンキー男とオープンカーで出ていくが,町を出る前に,車が岸壁に衝突大破して失敗に終わる。
 みさこの妹で,ヨシオと同級生のみき(宮本愛子)は,「あんな事故やのに,かすり傷ひとつもないなんて,かっこ悪いわ。お姉ちゃん,傷ひとつないのに,傷ものの出戻り扱いや。死んでたら,毎年暴走族があっこの場所で煙草で焼香してくれんのに」という。ちなみに,この子,演技,めちゃくちゃ上手い。

 そして,このみさこ,出戻りでやることがないからといって,例の野球の試合にかり出され,相変わらず,派手派手ケバケバの格好でやってくる。
 そして,ヒットをかっ飛ばして一塁までハアハア言いながら走って,なぜかパイポで一服。
 その後,試合が乱闘になると,パンツ丸見えの大股開きでベンチを抱え上げて,放り投げ,殴る,蹴るの大暴れ。
 おもしろすぎます。

 蓮佛美沙子自身の「みさこ」についての感想は「…えーと、この人何なの?」だそうです。

 出演作のほとんどで,物語のセンチメンタルな部分の中心を担っている蓮佛美沙子が,この作品では,物語がセンチメンタルになりすぎないようにする役割を担っているのは,興味深い。演技力の幅の広さに驚かされる。

 ちなみに,ヨシオが大学生(池松壮亮)になったとき,恋をする同級生「ミサエ」も,蓮佛美沙子が演じており,ふたたび,清楚で美しい姿で画面に登場するのも面白い。

「いけちゃんとぼく」,いろいろな楽しみ方のできる作品になっている。