川島海荷演じる主人公西表耶麻子(いりおもて・やまこ)は,あこがれの先輩南愛治に思いを寄せる女子高生であるが,毎日を幸せな気持ちで送っている。彼女の生活を唯一乱すのは,仕方なく入ったマット運動部の先輩不破風和(はんにゃの金田)の暑苦しく,押しつけがましい生き方である。
 ところが,耶麻子が南に思いを寄せていることが不破に知られてしまい,不破は耶麻子と南の仲を取り持とうとする。
 ここまでのストーリーは,まるで学芸会のような演技で描かれ,川島海荷とはんにゃ金田のコンビは,ご存じのとおりカルピスのCMなので(実際にカルピスも協力している),このままストーリーが進むのであれば,かなり痛い映画ではないかとの不安が心をよぎる。広い映画館に客がたった4人というのも,それに気づかず見に来た人数か?と思ってしまう。
 しかし前半のこのような描写は,心臓に重い病気を持ち,長くは生きられないことを知っている耶麻子が,リアルな感情を避けて生きていることを表現しているのだ。
 ところが,不破が南との仲を取り持とうとして,お祭りで,たこ焼きの屋台を南と一緒にやることを企画したことから,耶麻子はさまざまなリアルな感情と向き合わざるを得なくなってくる。
 実際に体を動かして作業をしたり,友人と一緒に何かを作る楽しみを感じる一方で,南に対する幻滅,自分を信頼してくれる友人を利用している自分自身への自己嫌悪などを体感することになる。
 そのたびに耶麻子は昔のような生活に戻ろうとするが,不破はそれを執念深く阻止する。ついには,不破自身に対する嫌悪感すら,耶麻子のリアルな感情としてあおり立てる。
 不破は,耶麻子の病気を両親から聞き,彼女がリアルな感情を避けて生きていることに気づき,彼女に本当の気持ちで生きて欲しいと思っていたのだ。
 金田は,この役どころを見事に演じきっている。確かに普段の芸風と通じるところのある役柄ではあるが,苦しみのない世界に戻ろうとする耶麻子を強引に引き戻す彼の台詞のひとつひとつが心の奥に響いてくる。ここまで深く演じることは,それほどたやすいことではない。
 まさか,金田にやられるとは思わなかった。
 ちなみに原作は「ちーちゃんは悠久の向こう」とおなじ,日日日(あきら)。