この物語は,前半が榮倉奈々主演,後半が仲里依紗主演のオムニバス連作である。
 「世界は平和だし,それに愛もある」
 後半の物語は,仲里依紗の演じる主人公,女子高校生糸井由美のこんな心のつぶやきから始まる。
 しかし由美が目にしたものは,ゴミ箱に捨てられた自分のフルートケースのカバーである。
 友人瀬田に古文のノートを貸して欲しいと頼まれ,試験に出そうなところにしるしまでつけて渡したのに,そのノートもゴミ箱に捨てられている。瀬田を演じているのは,仲里依紗の事務所の先輩で,本当は仲が良い吉高由里子。
 由美がゴミ箱の中のノートを見つけた時,通りかかったクラスメートの有吉は,さっきそのノートを瀬田たちが捨てていたと言い,友達なんじゃないのかと問う。
 由美は「自分のと間違えたんじゃないかな」とか,「ゴミと間違えたのかも」などと言って瀬田たちの悪意に気づかないふりをする。
 そんな由美を見かねた有吉は,文化祭の催し物の担当で,由美を強引に自分と同じ衣装係に引き込み,生地を見に行くと言って渋谷に連れ出す。有吉を演じるのは身長175センチのモデル原裕美子であり,仲間と群れようとしない役柄のイメージに良くはまっている。
 初めて渋谷に来たという由美は,ネイルシールを瀬田たちへのおみやげだと言って買う。バカなんじゃないのと言う有吉に対して,由美はカワイイものをカワイイと言ってくれる人にあげるのが好き,と言って熱心に選ぶ。
 しかし,ネイルシールも由美のそえた手紙と一緒にゴミ箱に捨てられる。それを見つけた時,由美は,自分がいじめられていることを自分自身にごまかそうとし,無理に笑顔を作ろうとする。しかしその顔は,この世の中にこんなに悲しい笑顔があるのかというような表情である。デビュー2作目にして,仲里依紗は素晴らしい演技力を示している。
 その直後,由美の憧れの男子が,由美の名前の書かれたラブレターを持って交際を断りに来る。それを陰から見ながら笑う瀬田たち。
 ショックを受けた由美がフラフラと校舎の屋上を歩いていると有吉に出会う。
 有吉は何も聞かず,何も言わず由美をふたたび渋谷へと連れだし,街を歩き回る。
 一緒に洋服屋に入り,少し元気を取り戻した由美を連れ,有吉はケーキバイキングの店に入る。
 そこでケーキを食べながら由美は,自分は,いじられキャラなんだけど,それも人気だという。でも,ラブレターを勝手に出されたのには参った,それで頭が真っ白になって屋上を歩いていたら有吉さんに会ったという。
 そこまで黙って聞いていた有吉は,ついにがまんできずに由美を店の外に引っ張り出して怒鳴る。
「あんたいじめられてんだよ」「友達がノートをゴミ箱に捨てるのかよ,友達がプレゼントをゴミ箱に捨てんの?」「そんなことされても,笑って,ヘラヘラしてるからいじめられんじゃんかよ」「怒れよ,怒ってみろよ」
 渋谷の街中で声をからして叫ぶ有吉に,ついに泣き出す由美。
 由美が涙を見せるのは,この物語の中でこのシーンだけである。
 それまで無理に笑顔を作って自分自身をごまかしてきただけに,堰を切ったような涙や泣き声には,それまでの由美のつらさがにじみ出ている。また,由美のことを心から思い,街中で声をからし,咳込みながら怒鳴る有吉の気持ちにも打たれる。
 その後,渋谷は土砂降りの雨になり,雨宿りをしながら座り込んで身を寄せるふたり。
 帰りたくないという由美につき合うという有吉。
 こうして渋谷の1日目の夜が過ぎてゆく。
 人通りの途絶えた渋谷で朝を迎えるふたり。
 ゲームセンターで遊び,カラオケボックスで眠り,一緒にプリクラを撮って過ごす。ある意味だらだらとした情景が続くが,そのだらだら加減は青春の持つ独特の不安定な雰囲気を感じさせる。
 また夜が来て,街角のガードに腰掛けて話すふたり。
 由美は,何でもひとりでできる有吉をかっこいいと思っていた,だけど,自分には無理だ,誰かと一緒にいないと不安だと言う。
 有吉は「今こうして,あんたといることが,私は楽しいよ」と言う。
 ところがその後,有吉が熱を出し,休める場所を探して円山町のラブホテルに入る。
 有吉の体調も戻り,ベッドでじゃれあうふたりに,突然隣の部屋から,男女の奇妙な睦言が聞こえてくる。爆笑して,それをまねるふたり。
 そのあと,由美がぽつりと聞く「有吉さんは,どうして私につき合ってくれたの」
 有吉は,中学の時,瀬田たちに援交をしていると噂を立てられて,みんなに無視されるようになったという。
 由美が,私は有吉さんのことが好きだよというと,有吉が初めて涙を見せる。
「私たちには泣くことが必要だったんだと思う」
 由美は心の中でつぶやく。
 翌日,由美が学校へ行くと有吉の指にはネイルシールが貼られている。
 初めて一緒に渋谷に行った時に,こういうものはしないと言っていた有吉に,これなら似合うかもと由美が言ったモノクロの渋めのネイルシールで,有吉は,それをこっそり買っていたのだ。
 ところが,そんな話をしているふたりに瀬田たちの陰口が聞こえてくる。
 黙るふたり。
 そして

「くっだらねーんだよ」

 教室に響き渡る由美の声

 有吉と渋谷で過ごした2日間は,それほどまでに由美を大きく変えた。
 本当の友達ができた由美にとって,瀬田たちの陰口や,仲間はずれをおそれて,そんな陰口にビクビクおどおどしていたこれまでの自分は,本当に下らないものだと心から分かった。そして,それを堂々と口に出して言えるようになったのだ。
 一瞬の静寂の後,笑い合う由美と有吉。
 この物語は,全てのシーンが,由美の,このたった一言に向かって進んできたと言ってもよいだろう。そして,仲里依紗のこの一言は,この物語をすべて受け止めるだけの強さを持っている。
 「時をかける少女」や「ゼブラーマン2」に続く仲里依紗の魅力が,すでにこの映画の中にも凝縮されている。