米議会グアム移転費削除で焦りは禁物 | 永田町異聞

米議会グアム移転費削除で焦りは禁物

米国上下両院が沖縄海兵隊のグアム移転予算1億5600万ドル(約123億円)を全額削除することに決めたという。


もっとも、グアムの基地施設やインフラ整備がいっこうに進んでいないというから、さほど影響はなさそうである。


問題があるとすれば、移転費の6割を負担することになっている日本が米側に渡してきたカネが使われないまま、たまっていることだ。2009年度に346億円、10年度に468億円、計800億円ほどにのぼっているという。


そもそも100億ドルをこえる移転費に、米側の過大見積もりのフシがあったことを考えると、ひょっとしたら日本負担分だけで基地建設ができると米議会は踏んでいるのではないか。


ならば、防衛省は来年度予算の概算要求519億円を取り消してショック療法というのはどうだろうか。米側が予算を削除するのだから、日本も同調すればいい。


「そんなことをしたら、普天間移設とパッケージのグアム移転ができなくなり、沖縄住民の負担軽減という目的が達せられない」と防衛省、外務省はいつも通りの物語を繰り返すに違いない。


はたしてそうだろうか。


アメリカは世界軍事戦略を再構築するために、沖縄の海兵隊を大挙、グアムに移転させる計画をつくった。オーストラリア・ダーウインに海兵隊を駐留させるという、最近発表された構想も米軍再編の一環だ。


8000人の海兵隊員とその家族をグアムに移住させるのが沖縄の負担軽減のためというのは、日本国内向けのストーリーにすぎない。


それに、米国が日本の負担で辺野古に新基地をつくることにこだわる最大の理由は、老朽化した普天間飛行場を脱出し、真新しい設備の整った基地に移りたいからである。


長年の交渉の末に合意して得た権利を手放したくないし、そんなことをすればオバマ政権に対する議会の風当たりがますます強くなる。


つまるところ、グアムも、沖縄の新基地も、普天間周辺住民のためではなく、米軍の再編に必要なだけだ。


いくら議会から軍事予算削減圧力が強まっているとはいえ、アジア太平洋に世界戦略の軸足を移しつつあるアメリカが、既設の海軍、空軍基地に海兵隊を加えて巨大軍事ハブを築こうとしているグアムへの移転を断念することはありえないだろう。


辺野古への基地移転合意が実行されなければ、グアム移転も白紙になり、結果として普天間を使い続けることになるという、日米安保マフィアの言いぐさは、従来から毎度くりかえされる脅し文句にすぎない。


普天間などの基地問題は、「沖縄のため」という装いをほどこされながら、米国に「打ち出の小槌」のように利用されてきたのである。


新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)