価格算定委候補、山地名誉教授が再生エネ否定に用いる欺瞞的データ | 永田町異聞

価格算定委候補、山地名誉教授が再生エネ否定に用いる欺瞞的データ

筆者は「永田町異聞」メルマガ版の今年6月9日号に、「山地名誉教授が語る太陽光発電巨額コスト論の欺瞞」と題する記事を書いた。


山地、すなわち山地憲治氏は、地球環境産業技術研究所長をつとめる東大名誉教授で、再生可能エネルギーに否定的見解を持つ学者だ。


山地氏をあらためて取り上げるのはほかでもない。再生エネルギーの推進に赤信号が灯りそうな人事案が経産省から出てきたからだ。


再生エネ法にもとづいて電力買い取り価格を検討する委員会(5人)の政府人事案に、山地氏を含む再生エネ導入反対派3人の名があがっていることに、与野党の有志議員や有識者が反発。5日に記者会見して、人事案の差し替えを求めた。


他の2人は進藤孝生・新日鉄副社長と山内弘隆一橋大学大学院商学研究科教授だ。


新日鉄の進藤氏は、電気の大口ユーザーの立場であり、国会の参考人として出席したさいに「日本経済の空洞化を助長する買い取り制度を現段階で導入することは避けていただきたい」と、明確に買い取り制度そのものに反対の立場を表明している。


交通経済学の専門家であるらしい山内氏も固定価格買い取り制度に否定的な発言をしてきた。


経産省は今国会中に人事案への同意を得たいようだが、5人の委員のうち山地、進藤、山内の3人が再生可能エネルギーの推進に後ろ向きでは、ビジネスとして成立する買い取り価格になるかどうか、おぼつかない。ビジネスにならなければ、再生可能エネルギーが普及するはずもない。


筆者も強い危機感をおぼえており、人事案に異議を唱える議員や有識者に賛同の意をあらわしたい。


そこで、取り急ぎ、問題の3人の候補者のうち、エネルギーの専門家である山地氏の見解にひそむ欺瞞について書いたメルマガ版6月9日号の一部を以下に転載することにした。この問題を考える読者の参考になれば幸いである。


◇◇◇
再生可能エネルギーの行く手には、強力な抵抗勢力が待ちかまえていることは確かだ。


電事連、経団連、そしてその傘下の企業に天下りする官僚組織がときの政権に揺さぶりをかけ、マスコミもうまく抱き込んで、原発がなければ経済は衰退するとか、電力不足に陥るとか、ネガティブキャンペーンを繰り広げて、覚醒し始めた国民を再洗脳しようとするだろう。


すでに、福島第一原発事故や浜岡原発の停止、世論の反原発気運に危機感を抱いた専門家、ジャーナリストらが、さまざまなメディアに登場し、再生可能エネルギーの欠点ばかりをあげつらって、原発の重要性を説いてまわっている。


たとえば、山地憲治・東大名誉教授は、月刊「選択」6月号の巻頭インタビューで、「電力にも品質の問題がある」と強調して、電力に占める自然エネルギーの増加に懸念を表明している。


さらりと読んでしまうと、「そうか、自然エネルギーの電力は品質が悪いのか」と、単純に受け取ってしまうだろう。そこで、じっくり山地が語っている内容を吟味したい。


まず山地はこういう話から始める。


「再生可能エネルギーが自然条件に大きく影響されるのは当たり前だが、このことが経済に与える影響についての視点が抜けている。電力にも品質がある。これは周波数と電圧の安定度によって決まる。たとえば周波数が変動すると(工場の生産機器など)様々な機器に影響が及ぶ。…不良品を生じ…経済活動がストップする…」


再生可能エネルギーで得られた電力では品質が悪く、工場の生産に支障をきたすというふうに読める。ところが、インタビュアーが「品質を保つうえで必要なことはなんでしょう」と質問すると、次のように答える。


「需用電力に対して供給電力をいかに合わせるか。需要が供給を上回ると、発電所に負荷がかかり、周波数が低下する。電気は溜めることが難しいので、過剰になれば周波数が上がる。日本の電力会社は、変動する需要に合わせて、比較的調整が容易な火力発電所の出力をコントロールしてバランスし、この国の産業を支えてきた」


これを読むと、再生可能エネルギーがどうこうということではなく、要は需要と供給のバランスをとれば電力の品質が保てるようである。


そこで、聞き手はさらにこう質問した。「再生可能エネルギーが増えるとどんな影響が出ますか」


山地「再生可能エネルギーが大きな割合を占めると、需要側に加え、(自然条件によって出力が変わるので)供給側も変動することになる。供給量が暴れるといってもいい。火力発電所があっても需要に供給を合わせるのが難しくなる」


やはり電力の需給を合わせることが肝心らしい。変動する自然を相手にすると、それがやりづらいということのようだ。では、技術力でその難題を克服できないのだろうか。そのためにスマートグリッドがあるのではないだろうか。


山地は「技術で欠点を補えませんか」という問いに「可能だが、大変なコストがかかる」と言って、次のように続けた。


「供給側が暴れることによって、やむを得ず生じる余剰電力を蓄積し、再び供給するための設備が要る。発電設備への投資とは別に必要になる。2020年までの国の目標である2800万キロワットていどの太陽光発電でも、数兆から十数兆円が必要になると試算されている。…(電気料金が)高価であれば、製造業は国外へ逃げてゆくことになるだろう」


スマートグリッドについては一言もふれず、自然エネルギー発電量のコントロールをするための蓄電供給設備に言及し、それに要する投資が巨額で、ワリに合わないことを強調する。


一方、原子力発電所の建設に投じられる地元対策費や交付金、使用済み核燃料の再処理、放射性廃棄物の処分、管理、貯蔵などにかかる巨額な費用については棚に上げたままだ。


そこで、山地の言う数兆から十数兆円という試算がどこから出た数字なのかをさがしてみた。経産省のホームページでは、2020年の2800万キロワットという太陽光発電の目標値は見つかったものの、「数兆から十数兆円」に該当する資料は見当たらない。


ようやくそれらしき数字に遭遇したのは、山地が所長をつとめる地球環境産業技術研究所のウェブサイトに公開されている資料「日本の発電コスト比較」のなかである。


これは、石炭、天然ガス複合、原子力、風力、太陽光それぞれについて、発電費、その他費用の推定値を表にまとめたものだが、まず驚くべきことに風力と太陽光のみに記入されている系統安定化のための追加費(周波数調整、余剰電力、配電対策等)に、こんな但し書きがつけられている。


「限られた文献からの引用となったため、引用文献の一部については、前提条件の想定が適当とは考えられないものや精度の高い推定と考えられないものも含まれるので、注意が必要」


あらかじめこんな注意書きをつけた太陽光発電の「系統安定化のための追加費」の欄には以下のごとく、経産省研究会と環境省研究会の試算が記されている。


◇【経済産業省研究会試算2009年7月】 

~2,800万kW:3000億円程度(2030年まで累積)
~5,100万kW:4.6兆円程度(2030年まで累積)
~5,321万kW:最大7兆円(2030年まで累積)

【経済産業省研究会試算2010年5月(出力抑制無、系統側蓄電池ケース)】

~2,800万kW:16.2兆円(20年まで)

【環境省研究会試算2009年2月】

~7,900万kW:3.56兆円(2030年まで累積)◇


この数字のバラツキはどういうことであろうか。山地の言う2,800万kWの場合、「経産省研究会試算2009年7月」では、30年までの累積で3000億円に過ぎないのに、「経産省研究会試算2010年5月」だと、20年までで16.2兆円かかることになっている。


そして、環境省研究会試算では、30年までの累積で3.56兆円である。


3000億円、3.56兆円、16.2兆円の3つの試算があるのだから、山地は「数千億から十数兆円」と正しく言うべきところを、あまりの数字の開きにバツが悪いのだろうか、「数兆から十数兆円」とごまかしてしまったようだ。


この明らかにいい加減な数字を駆使して、自然エネルギーは高くつく、ゆえに増やすべきでないと主張するのは、あまりに国民を愚弄しているといわざるを得ない。


日本の不幸は、権威に胡坐をかいたエリートがこのように国民をバカにし、平気で騙すことである。


新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)