今こそ試される菅首相の器量と胆力 | 永田町異聞

今こそ試される菅首相の器量と胆力

6月24日の当ブログで以下のように書いた。


民主党にとって厳しい戦いになることは疑う余地がない。昨年、「政権交代」のフレーズは風を呼び、いつしか旋風となった。自民党政権という旧体制を標的にする分かりやすさは国民を熱狂させた。しかし今回、「脱小沢」「消費増税」で、はたして有権者の共感を呼ぶかというと、そうはいかない。


すでに政権交代が達成され、熱狂から覚醒、覚醒から不満へと移りゆく過程にある以上、構造的に、勝つのは至難の選挙であった。


そういう自然な経緯をたどることを、小沢前幹事長ははっきりとわきまえていた。人心の移ろいやすさは身にしみているだろう。


だからこそ、風に頼らない、いわゆる「どぶ板選挙」的な戦法を重視し、組織づくりや、自民党からの業界団体はがしを進めたのである。


ところが、官僚、米国、自民党といった旧体制ネットワークが検察とメディアを動かし、小沢に金権悪徳政治家のレッテルを貼り、幹事長辞任に追い込んだ。


国民は疑心の渦に巻き込まれ、改革を志向する安定政権をこの国に確立するための現実的戦略は打ち砕かれた。これが最も重要な点である。


今回の参院選によって、国民は再び、衆参ねじれの不安定政治を選びとり、ただでさえ官僚組織の抵抗にあえいでいる改革政権に、さらなる足枷をはめることになった。


もちろん、いわゆる「脱小沢」人事による驚異的なⅤ字回復の歓喜が、菅首相をして本格政権への「欲」にかりたて、消費増税に前のめりのイメージをかもし出したことが、次なる敗因としてあげられるだろう。


人間を高みに導くのも「欲」なら、奈落に突き落とすのも「欲」である。


その意味で、いま、より危険な位置にたたされているのは予想をはるかに超える議席を獲得して勝利した自民党と見ることもできる。


「勝ったというより民主党の自滅だ」と、つとめて冷静を装っている自民党に、政権奪回の「欲」が生まれるとき、党内のパワーバランスが変わり、政争のタネと、政策の迷いが生まれる。


それはとりもなおさず、勝利者であるはずの谷垣総裁の危機でもある。


一方、民主党は、国家改造のために政権交代したという原点に立ち戻る必要性を、この選挙で痛感したはずだ。


同じように消費増税を打ち出しても、自民党ならOKで、民主党は「ノー」という結果が出たのである。


つまり、民主党に求められているのは、まず官僚の中央集権的組織の解体である。消費税云々より、それが前に来なくてはならないということだ。


ここは開き直って、改革政権を前に進めるしかないだろう。親小沢、反小沢といったマスコミ的事実に惑わされることなく、過去の恩讐を超えて、政略を練りなおす必要がある。


今回の選挙結果で、菅首相が教訓とすべきは、「自らの王朝をつくれるかもしれない絶好のチャンス到来」とばかり、蜃気楼のごとき世論調査を、自分に都合よく解釈した誤謬である。


その浮ついた心境を、諌めるように、小沢一郎は山村のビールケースのうえで、お年寄りたちに語りかけた。


かつて四国八十八か所のお遍路の旅に出た菅直人は、まさか単なるパフォーマンスで寺をめぐったわけではあるまい。


参院の与党過半数割れは、あらたな連立のあり方を迫ることになるが、そのときにはおそらく小沢の力を借りなければならない局面を迎えるだろう。


菅首相にそれだけの器量と胆力があるかどうかが、ここからは肝心である。


      新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo)