ヤクザと日本社会 | 永田町異聞

ヤクザと日本社会

「私、生まれも育ちも葛飾柴又です」と仁義を切るフーテンの寅さんの職業ははテキヤだが、警察の定義ではテキヤもまたヤクザである。


キネマ旬報が日本映画史上ベストテンの5位に選出した「仁義なき戦い」は、広島で実際に起こったヤクザの抗争事件を描いたものだった。


清水次郎長、森の石松、国定忠治・・・昔から芝居や講談の世界で、「弱きを助け強きをくじく」存在として、義理人情をからめて描かれてきたのが、仁侠に生きるヤクザのヒーローたちだった。


なぜか日本人は、アウトローの破天荒さや、親分子分の絆、いなせな気風を好むところがあった。そんな精神風土、いまも多少は残っているのではないか。


そのことと、力士たちの野球賭博を結びつけるのはどうかと思うが、昔からヤクザと相撲の興行は因縁浅からぬ関係にあったのは確かである。


芸能やプロレスなどの興行も同じことで、三代目山口組組長、田岡一雄の神戸芸能社が美空ひばりの後ろ盾になっていたことはよく知られている。


こういうことを考えあわせると、相撲協会や力士を責めるだけでは、なにごとも解決しないように思われる。


むろん、相撲協会の改革は必要であろう。時津風部屋の力士暴行死事件をきっかけに、親方以外から外部理事2名と監事1名が協会に加わったが、まだまだこの組織の「井の中の蛙」体質は変わっていない。


力士たちの意識改革も大切だ。あまり「相撲道」とまつりあげて、過剰に品格を求めるのも考えものだが、ファンあってこそというプロ意識くらいは持ってもらいたい。「飲む打つ買う」はほどほどにしないと、今回のような大問題になる。


それはそれとして、この国に深く根を張っているヤクザ組織がつくる裏社会もまた日本の現実の一断面であることを認識してこの問題に向かわなければ、単に相撲界に不心得者を探し出し、「けしからん」と騒ぐだけで終わってしまう。


実は、政界、経済界を含め、ヤクザの人脈、金脈はあらゆるところに張りめぐらされている。92年に施行された暴力団対策法によって、ますますその活動は潜在化、巧妙化し、近年では企業社会への進出が盛んになっている。


戦後、闇市を仕切ったヤクザは、神社のお祭りはもとより、芸能、プロレスなどの興行で大いに儲け、豊富な資金をつかって政界とのパイプも築いた。


60年安保闘争のとき、岸内閣の助っ人として、デモ隊阻止の軍団をつくって馳せ参じたのもヤクザだった。その仕掛け人が、右翼、ヤクザ、政治家とつながりの深い児玉誉士夫だったことはよく知られている。


児玉は上海の「児玉機関」が管理していた旧海軍の資産を隠し持って帰国、それを提供することで戦後政界にフィクサーとして君臨する一方、暴力団への影響力によって裏の資金源も確保し、ロッキード事件で起訴されるまで、日本の表と裏の世界をつなぐ怪物であり続けた。


その後も、政界とヤクザとの関係は切れることがなかった。暴対法の施行をきっかけに、ヤクザは右翼政治団体を名乗り、収益源をそれまでの賭博、覚せい剤などから、街宣活動や、経済活動にシフトしていった。


街宣活動は竹下登や中川秀直らに対するいわゆる「ほめ殺し」に代表される。ターゲットにされた政治家は、結局、ツテを頼って闇のルートから街宣活動の黒幕にアプローチし、金銭で解決する。これはヤクザの大きな収入源になった。


暴力団員の数は全国で約8万人と警察は発表しているが、実際はもっと多いようだ。山口組、稲川会、住吉会系の組員が全体の70%以上を占め、山口や稲川の収入は年間1兆円にも及ぶといわれている。


この豊富な資金をベンチャー企業やファンドへの投資に振り向けたり、自ら企業活動を行うなど、ヤクザ組織の活動は昔に比べて頭脳的で、実態がつかみにくくなっている。


とくに警察に入る情報が極端に減っている。暴対法施行にヤクザの側が猛反発し、組員に警察との接触を厳しく禁じたのがきっかけだ。それまでは、立場の違いはあっても、それなりの関係を保ってきただけに、捜査員はやりにくくなった。


警察の焦りをせせら笑うかのように、派手なことをやってのけたのが名古屋に本拠を置く山口組系弘道会だ。


大相撲の二人の親方を使ってテレビに映る正面席チケットを手に入れ、のべ55人の幹部らが名古屋場所の取組を悠然と観戦した。


服役中の山口組六代目、司忍組長に、テレビを通じて姿を見せたかったのではないかと推測されているが、真相は定かではない。


不況下の日本で、羽振りのよさをテレビカメラを意識して見せつけるというのは、庶民の味方だった昔の侠客とは全く異質というほかない。


名古屋では、中部国際空港も、トヨタのビルも、弘道会の睨みがきいてスムーズに工事が進んだといわれている。


いくら取り締まられ、世間の非難を浴びてもこの裏組織が巧妙に生き延び、さらに肥大化する背景には、それを利用してコトをうまく運ぼうとする表の勢力の存在がある。


そして、表と裏をつなぐ闇のルートは、情報機関の調査網にもかからないほど、みごとに隠蔽されている。


日本社会は途方もなく根深い問題を抱え込んでいる。相撲界とヤクザの付き合いは、表に出ているほんの一部に過ぎない。


力士をかばうつもりはないが、少年時代から相撲の稽古に明け暮れている人たちである。暴力団の資金づくりに加担しているなど、ツユほども思っていなかったのではないか。


マスメディアには闇に隠れて社会の土台を蝕んでいる大きな悪を見逃すことがないよう願いたい。


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