長口舌で時間切れの麻生首相、安保論議お預けに | 永田町異聞

長口舌で時間切れの麻生首相、安保論議お預けに

鳩山由紀夫は、低い声で落ち着いてしゃべったときに味が出る。街頭や本会議場で、大声を張り上げると、音が割れて、いまいち演説が冴えない。


ヤジが規制されて静かになった昨日の党首討論。鳩山はじっくりとマイペースで、麻生首相を攻め立てた。麻生首相が負けじと応戦したあとの、ぼそりと繰り出すひと言に薬味がきいていた。


鳩山は、人の命が何よりも大事だという視点で、医療や福祉の充実を唱え、麻生は政権党の強みを生かすべく財源論を突きつける。


毎年度の社会保障費2200億円削減を追及された麻生は、「消費税論議を避けるのは財源を避けて通ることになり、無責任だ」と切り返したが、鳩山はひるむことなく、つぶやくように言った。


「私は、今、お話をうかがって、人の命より財源のほうが大事なのかなと」


ムキになって反論を始めない、この一瞬の間合いが、効果をもたらし、続く言葉が生きてくる。


「官僚任せにし、コンクリートの方が大事で、人の命を粗末にする政治に成り下がっている」


ハコモノや道路建設を優先する自民党の予算編成を、「人の命」と「コンクリート」という二つのキーワードで印象づける巧みな手法だ。


小沢一郎における平野貞夫のように、鳩山にも、舞台裏の優れた「言葉の達人」が存在することは紛れもない。


そして、野党ゆえに不利な財源問題について、以下のように予算組み替え論を展開した。


「一般会計と特別会計で210兆円。社会保障費、国債費は削れないが、公共事業、施設費、人件費、補助金の計70兆円を、随意契約見直しや、不要不急なものの後回しで10兆円削減できる。官僚任せの政党ではできないが、民主党ならできる」


鳩山にとってはまずまず納得のいく党首討論ではなかっただろうか。


一方、麻生首相は、財源論と安全保障で鳩山代表を攻める方針を立て、メモを用意して攻撃のタイミングを見計らっていたが、要領よく簡潔に話をまとめることが苦手であるため、余計な言葉があふれ、かえって自らの持ち時間を早々と使い果たした。


そのため、制限時間1分前になって無理やり安全保障問題を持ち出すハメになってしまった。発言をありのまま載せるとこうなる。


「あと1分だということなんで、これで終わらせていただきますが、話が途中になってるというとこもありますし、われわれとしては間違いなく、安全保障の問題。なんとなく、となりの朝鮮半島の話など、いろいろなお話を伺っておりますと、どう考えても第7艦隊さえいれば大丈夫だと、ね」


「第7艦隊だけいれば十分だという話が出てきてみたり。われわれとしては日米安全保障条約を確固たるものにするのが今、われわれとしてもっとも大事なところなんじゃないかと。私は基本的にそう思っております。第7艦隊だけで日本の安全が守れるであろうか、ということに関しましては、われわれとしては明らかに偏っていると思っております」


鳩山が「突然に安全保障の話を最後にふられて、国民の皆さんも唖然とされたんではないかと思いますが」と皮肉ったのはともかく、国民みんなが感じているのは、麻生首相の発言がダラダラと長くて、不明瞭であることだろう。端的に、ポイントを話してもらわないと、分かりづらくて仕方がない。


前掲の発言内容から要らない言葉、たとえば「われわれとしては」の四箇所を削っただけでも少しはすっきりする。試しに、長々とした言葉を整理してみると。


「安全保障に関して、民主党から第7艦隊がいれば十分という話が出ておりますが、それだけで日本の安全が守れるでしょうか。日米安全保障条約を確固たるものにするのが大事です」。


これですむ内容である。かなり時間の節約になり、その分、党首討論の内容もバラエティに富むだろう。


日本語の文法を無視した麻生節もそれなりの個性かもしれないが、もう少し簡潔で分かりやすい話し方をしてくれれば、聞くほうとしては大変ありがたい。


とはいえ、小泉純一郎のようなワンフレーズポリティックスも、危険な面がある。


政治家にとって、言葉は命である。かつて鈍牛宰相といわれた大平正芳は「あー」「うー」と言葉を探しながらしゃべるのがいささか耳障りであったが、歴代首相の中で最も言語を大切にする政治家だった。


読書家として知られ、酒を飲んでいても哲学的な話をする人だったという。文章も上手く、長男を亡くした悲痛を綴った本は「涙なしには読めなかった」と読売の渡邉恒雄が回顧録で述べている。


日本語の乱れが指摘される昨今、せめて政治家が日本語に命を吹き込む努力を示さなければ、この国の文化の根幹が壊れてしまう。


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