取調室で何が・・・菅家さんの心の軌跡をたどる | 永田町異聞

取調室で何が・・・菅家さんの心の軌跡をたどる

人はそれぞれ顔も違えば性格も違う。取り調べの密室で、「お前がやったんだろ」と責め立てられて、すぐに心のバランスを失う気弱な人もいるし、鼻先でせせら笑う正真正銘のワルもいる。


並の人なら、刑事や検事というだけで、怯えるものだろう。足利事件の菅家利和さんも、きっとそうだったに違いない。


平成3年12月1日、何の前触れもなく、女児殺害の重要参考人として足利署に任意同行を求められたとき、どれほど気が動転したことだろう。心当たりが何もないのだから、なおさらだ。


7日のテレ朝「サンデープロジェクト」で、菅家さん本人が連行された日のことを話していた。その内容から、菅家さんが自白するにいたるまでの心の動きがなんとなく分かるような気がした。


取り調べはその日の朝から始まった。「お前がやったんだな」「証拠はあがっているんだ」と繰り返し詰め寄る刑事。机をたたき、髪の毛を引っ張り、大声を張り上げる。


「だんだん刑事がこわくなり、疲れと、眠さで、私はもう疲れてしまい、やってもいない事件をやったといえば休ませてくれると思い、それでやったといってしまいました」。


菅家さんは支援者に送った手紙の中でそう書いている。自白したのはその日の午後10時すぎだったという。


ここからは、筆者流の解釈となるが、「刑事がこわくなった」という菅家さんの心の眼に、刑事の姿がどのように映っていたのかを考えた。


裁判員制度もスタートした今、取り調べを受ける側の心理に思いをはせることは、われわれ一般国民にとっても無駄ではないだろう。


苦しいとき、人は当然のことながら何かに救いを求める。その途方にくれた心に入り込む取調官は、こわい存在であると同時に、地獄から救い出してくれる存在にも見えるのではないか。「早く吐いて楽になれ」という囁きが、甘く響くのではないか。


それほど、心理的に菅家さんは追い込まれていた。無意識のうちに、逃げ込む安息の場を探していたはずだ。


だから、おかしな表現をあえてするなら、目の前にいるこの刑事に喜んでもらいたいと、悪魔に誘われるように心が動いていったかもしれない。


いまここで、客観的にその状況を想像している筆者とは違うのである。その時その場で、精神的な苦しみやダメージを味わっている人間は、一刻も早く、そこから逃れたいと思うだろう。


刑事を喜ばすことが、ほんとうは自分を破滅的な結果に導くのだと、しっかり冷静に判断するのは難しい。心のコントロールはよほど鍛錬していないと困難だ。


菅家さんは、刑事の期待にこたえて、ウソの自白をした。その内容を、サンプロの番組中、まるで事実のように語り始めた。


「パチンコ店の駐車場で自転車に○○ちゃんを乗せ、河川敷まで連れて行き・・・」


菅家さんは懸命に、刑事の顔をうかがいながら、架空の話を頭の中でつくりあげたのだろう。


捜査官は、思い描いたストーリーに沿って、自供を引き出そうとする。刑事の口から飛び出す質問により、菅家さんも求められている自白の中身を、ぼんやりと、つかめたのではないだろうか。


菅家さんは、DNA鑑定で有罪になり、同じDNA鑑定で釈放された。19年を経た鑑定技術の進歩が、天と地ほどもある、その差となった。


しかし、取り調べや調書の作成などに関し、自白偏重とそれによる冤罪を防ぐ有効な手立てが、いまだに講じられていないのは、いかにも残念なことである。


民主、社民両党は取り調べの一部始終を録画・録音する「全面可視化」法案を参院に提出し、可決したが、衆院を通過する見込みは薄い。


「全面可視化」は、これまでの取調べ手法を死守したい捜査側にとっては好ましからざる制度である。


「被疑者が自白しなくなり、捜査に支障がある」という警察や検察の意を受けた与党は、否決または、継続審議に持ち込むだろう。


しかし、裁判官にとっても、 新たに加わったシロウト裁判員にとっても、検事が用意した自白調書だけでなく、取調べ中のやり取り、表情、態度を録画で確認できることは、判断にプラスになるのではないか。


検事の調書はつねに論理的に正しくつくられている。そのため、ほとんどの裁判で、被告人は有罪になる。しかし、論理というのは後付けでどのようにでも組み立てられるものだ。


人が人の言葉をもとに物事を判断する場合、論理だけでも、直感だけでも、不足である。取り調べに対する被告人の受け答えぶりは、自白調書の信頼性を判断する上で、重要な材料の一つとなる。


全面可視化は、欧州各国や米国の多くの州ですでに行われているらしい。警察や検察の主張どおり、本当に捜査に支障が出るのかどうか、各国の取り組みが参考になるだろう。


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