小沢代表に近づく覚悟の時 | 永田町異聞

小沢代表に近づく覚悟の時

今朝の日経新聞に、こじんまりとしてはいるが気になる記事が載っている。政府高官が5日、西松建設の献金事件について「自民党に及ぶことは絶対ない。請求書のようなものがあれば別だが、金額が違う。立件はない」と断言したという。


政府高官といえば、通常、内閣副官房長官を指す。つまり松本純、鴻池祥肇、 漆間巌のうちの誰かがオフレコでしゃべったということになる。政治家が絡む事件の捜査に関して官房副長官が言及するのは、異例だし、オフレコとはいえやや軽率な感がしないでもない。


自民党では加納時男、山口俊一、二階俊博、森喜朗らが相次いで西松側の団体からの献金を返却する意向を示している。このほか、献金を受けた自民党議員として、尾身幸次、藤井孝男、藤野公孝らの名も挙がっている。本来であれば金額の大小に関わらず、彼らも捜査対象となっておかしくないわけだが、東京地検特捜部がターゲットにしたのが、最も目立つ小沢一郎だったということだろう。


さて、内閣官房副長官の発言が個人的見解でなく、法務大臣から首相に報告される内容に基づいたものだとすれば、名前の挙がった自民党議員はとりあえず枕を高くして眠ることができる。一方、ただ一人狙い撃ちにされた小沢一郎は、覚悟を決めなくてはならないかもしれない。


検察という国家権力の恐ろしさは小沢自身が一番知っている。小沢の後ろ盾だった政界のドン、金丸信や、小沢自ら育ての親と呼ぶ田中角栄が、いずれも検察の手にかけられたからだ。小沢は検察への敵意をむき出しにする。


「90年代の証言・小沢一郎」(朝日新聞発行)で、次のような発言が見られる。


「司直の裁量権がその時々の雰囲気でどこまで行使されるかが決まってしまうことになる」


「検察というのは何でもできちゃうんです。マスコミは政治家に対する捜査は無原則にどんどんやれと応援する(中略)田中角栄先生の逮捕もそうです。当時、首相だった三木武夫さんがオーケーを出したから捜査できた」


「検察が大物を対象にした捜査をやるときは、必ず総理にお伺いを立てます。行政ですからね。金丸さんのときに(中略)首相だった宮沢喜一さんが検察の捜査方針に“うん”と言ったんでしょうね。そうでなきゃ検察は捜査をやりっこないですから」


こういう思いが、秘書逮捕に関する先日の記者会見での、検察との対決姿勢につながったといえる。


しかし、検察と喧嘩しても、事態は悪化するだけだろう。検察サイドからのリークと、西松の現経営陣や地元土建関係者らからもたらされる情報は想像以上に豊富である。麻生政局で政治部に紙面を奪われていた新聞各社の社会部は、久しぶりの報道合戦に張り切っている。マスコミのセンセーショナルな勧善懲悪の言論世界にいったん巻き込まれたら、いくら豪腕といえども脱け出すことは不可能に近い。


元特捜検事、田中森一弁護士は「検察の捜査の本質が権力体制と企業社会を守護するためのものだ。つまりすべて国策捜査である」という。


国策捜査について、鈴木宗男の事件でともに逮捕された外務官僚、佐藤優(起訴休職中、作家)は著書「国家の罠」で、体験をもとに、かなり掘り下げた分析をしている。


佐藤を取り調べた西村検事は「これは国策捜査だ」と明言し、「闘っても無駄だ」ということを佐藤に理解させることに腐心したという。そして、「国策捜査は時代のけじめをつけるために必要だ。何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのだ」と説明したという。


西村検事の次の言葉は、検察の捜査の本質を具体的に表現している。


「国策捜査の対象になるのは、その道の第一人者なんだ。(中略)そういう人たちは、世間一般の基準からするとどこかで無理をしている。だから揺さぶれば必ず何かでてくる。そこに引っかけていくのが僕たちの仕事なんだ。だから捕まえれば、必ず事件を仕上げる自信はある」


佐藤はこう結論づける。国策捜査は国家が「自己保存の本能」に基づいて政治事件を作り出していくことだ。初めから特定の人物を断罪することを想定したうえで捜査が始まる。要するにいったん、捜査のターゲットになり、検察に「蟻地獄」を掘られたら、そこに落ちた蟻は助からないのである。


こうしてみると、大久保秘書の起訴は避けられないだろう。小沢本人への聴取も予想される。小沢が昨年の参院選勝利などに果たした役割や、原理原則を貫く強いリーダーシップは評価できるものの、田中派以来のゼネコンとの腐れ縁を断ち切れていない以上、自民党の利益誘導政治を批判してきた民主党の代表としてとどまることは難しいし、許されないことであろう。


総選挙を前に、政界一の選挙通である小沢を失うのは民主党にとって目先の損得勘定ではマイナスかもしれない。しかし、いつまでも小沢頼みでは、民主党の将来はない。中堅若手にキラ星のごとく人材はいる。カネではなく人間力の強さで人を結集するというのは理想論かもしれないが、そうあってほしい。


「心頭滅却すれば火もまた涼し」。心を空にすることによって、燃え盛る炎の熱ささえ超えることができる。選挙に勝つには、勝つことに囚われてあくせくしないことだ。国家、国民のために。怒らず、驕らず、心静かに。 (敬称略)


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