倒産続出、緊急融資は麻生発言通り順調だったのか | 永田町異聞

倒産続出、緊急融資は麻生発言通り順調だったのか

国地方を問わず役所は休みに入り、庁舎内の記者クラブは開店休業状態。もちろん国会は休みで、政治家は地元に帰り、政治記者も一息ついたところだろう。


新聞社は、記者会見がないと発表記事という便利なシロモノが本社に集まらないため、放っておいたら原稿が不足して新聞紙面を埋められない。そこで、前もって12月はじめごろから各記者が書きためた「おせち原稿」を大量に使うことになる。


そんなわけで、メディアの政治面に、これからの10日間は新鮮ネタが出てきそうもない。そこであれこれ考えた末、昨日の体験から書き始めることにした。奇妙な「閑」と「忙」の対照についてである。


まず「閑」のほうから。某政府系金融機関の支店前を通りかかった。年末の最終日ということもあり、さぞかし資金の借り手が契約に詰めかけているかと思って中をのぞいたら、支店に一人客の姿もない。正午過ぎで、職員も昼食に出かけているのか、6、7人が暇そうにしている。御用納めで、ことしの業務はほぼ終了という感じだ。


ちょうど、そのころ携帯電話が鳴った。知り合いの民間信用調査機関の調査員だった。「○○という会社知っていますか」。「ああ、名前くらいはね」。「かなり危ないらしいんですよ」。「なんだか忙しそうだね」。「猛烈に忙しいです」。


一度、食事をしようかと言っていた相手だが、倒産会社の続出で走り回っているらしく、「忙」のため食事は当分お預けということになりそうだ。


彼の話では、数ヶ月前まで順調だった会社がカネの流れがピッタリ止まって、バタバタ倒れているという。黒字倒産とか、資金繰り倒産とかいう、リーマンショック以降の典型的なパターンだ。


政府は一次補正予算や金融機能強化法で年末の資金繰り対策は万全だといっている。そのわりには、金融機関から資金を借りられず、存亡の危機に瀕している会社が多いのが現実だ。


考えてみれば金融機関の融資担当者だって、貸し倒れになりそうな会社にカネは貸せない。今のご時勢だからとりわけ慎重になる。いくら政府が中小企業の資金繰り対策に力を入れているポーズをとっていても、貸したカネが焦げついて責任を問われたくないというのが本音だろう。


そんなことくらい金融庁は百も承知のクセに、10日ほど前だったか、中川金融相が大手行、地銀、信金の経営者らを集め、貸し渋り防止への協力を要請し、政府の姿勢をアピールしてみせた。


政府の中小企業金融対策について、「小沢vs麻生」討論での麻生発言を思い出していただきたい。


「この年末にかけては、一次補正が通っておりますので、その中で、中小・小規模企業対策などのいわゆる9兆円の保証枠また貸出枠等々は順調にはけておりまして、昨日、今日と約1000億円、1100億円、毎日そのような形で使われておりますのでもう御存じのとおりです」


つまり、順調に貸し出しがなされ、このペースだと1ヶ月に3兆円から3兆5000億円くらいですみ、年内は保証枠、貸付枠合わせて9兆円あれば十分だから、二次補正は来年でいいと言いたかったのだろう。


中小企業にとって融資を受けるさいの頼みの綱は、各地の信用保証協会の保証である。今回の一次補正予算では、緊急保証枠拡充が6兆円、政府系金融機関のセーフティーネットが3兆円、合計9兆円の対策が盛り込まれた。


これについて今月11日の参院財政金融委員会で、民主党の川崎稔が「審査が厳しいから1000億円、1100億円ですみ、保証枠が6兆円で十分と言うが、借り手からいえば十分じゃないのではないか」という趣旨の質問をした。


川崎は今回の緊急融資と、金融機関の破綻が相次いだ平成十年の十月から平成十三年三月まで実施された特別保証融資を比較した。


信用保証協会が100%保証する10年前の特別融資では、粉飾決算や大幅な債務超過など「ネガティブリスト」に該当しなければスピーディーに融資が実行されたが、今回は違うのではないかという。


「現場の声、いろいろ耳に入ってくるんですけれども、審査がいつもと変わらない、あるいはむしろ厳しくなっているんじゃないかとか、いろんな声が入ってきている」


信用保証協会を所管する中小企業庁事業環境部長の横尾英博は次のように答えた。


「ネガティブリスト方式につきましては倒産の防止、雇用の維持に効果があったという評価がある一方で、借り手側の濫用の問題あるいは貸し手側のモラルハザードといった問題も指摘されておりまして、今般の緊急保証制度におきましては、この特別保証の経験を踏まえて適切に運用しておるということでございます」


やはり10年前より審査は厳しくなっているようだ。「借り手側の濫用、貸し手側のモラルハザード」とは何を意味するのか。つまりは、審査が甘すぎたということか。


たしかに、平成10年から13年までの特別融資で保証した約29兆円のうち、返済されず代位弁済となったのが約2.6兆円もあり、これに政府資金が投入されている。国の資金を扱う限り、いい加減な審査は許されない。国民の損失につながることがあるからだ。


こうしてみると、大量の案件をかかえながら、的確な判断をしていかねばならない信用保証協会や金融機関の調査、審査担当者はさぞかし重圧がかかることだろう。決算書の数字だけでは分からないことも多い。時には現地に足を運び、経営者の話をじっくり聞くことも必要だ。


赤字続きでも貸せる会社があり、黒字でも貸せない会社がある。実際の事業の中身が大切なことは言うまでもない。だからこそ、融資の審査は難しい。


一時的な金融の目詰まりで、将来性のある会社を失ってしまうのは国の損失でもある。やはり、借り手の会社や経営者の体質、資質をしっかり見抜く眼力を金融機関に求めるほかはない。 (敬称略)


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