「2015年消費税10%に」という与謝野発言に漂う空虚感 | 永田町異聞

「2015年消費税10%に」という与謝野発言に漂う空虚感

支持率20%のボーダーラインをさまよう、瀕死の内閣の閣僚に将来のことを聞いてもむなしい気がするが、経済財政相、与謝野馨は「消費税を3年後に7.5~8.5%くらいにし、さらに段階的に上げて2015年までに10%くらいにしたい」と、21日のテレ朝「サンデープロジェクト」で語った。


政府の税制改正「中期プログラム」に「3年後の消費税アップ」を組み込み、公明党の了承も取りつけてホッとしたのだろうか、、与謝野はのぞましいアップ率の数字まであげてリップサービスした。


自民党で財政再建を唱えるグループは、経済成長に力点を置く「上げ潮派」と、増税を第一に考える「財政タカ派」に分かれる。前者が中川秀直や伊藤達也、後者が与謝野や谷垣禎一らだ。


国家財政の危機を財務省とともに訴えることで、消費増税の必要性を説いてきた与謝野のことを、竹中改革を支えた元内閣参事官、高橋洋一は“財政再建原理主義者”と呼ぶ。経済が多少がたついても、財政がよければいいという考えの持ち主だという。


高橋の著書「さらば財務省」に、日本の財政に関するつぎのような指摘がある。「財務省が危機感をあおっている834兆円の債務は粗債務であって純債務ではない。538兆円にものぼる政府の資産を差し引くと、純債務は約300兆円まで減る」


高橋は「日本は財政危機とは言えず、そのことは財務省がいちばんよく知っている。財政タカ派から出てくるペーパーには数字のトリックがある」と増税論を批判する。


高橋が示した債務と資産の数字について、田原総一朗から質問された与謝野は次のように答えた。「高橋さんのは読んでいないけど、政府資産というのは飛行場も高速道路も公共施設もあり、売れないのが多いのではないか。現金にできないのでは借金を返せない」


田原の問いはあっさり引っ込んだが、これも、なかなか巧みな話のすり替えである。その根拠を、高橋の同じ著書のなかに見つけることができる。

 

日本の政府資産の特色は、金融資産が先進国のなかで飛びぬけて多いことだ。金融資産は300兆円以上あり、4割を占める財投による特殊法人などへの貸付金は250兆円にものぼる。そのうちかなりの部分は証券化という手法を使い時間さえかければ売却できる。特殊法人や独立行政法人への出資金50兆円も、一部は技術的に売却可能だ。


高橋は不動産や施設などではなく、政府の巨額な金融資産を問題にしているのだ。それらを売って、国民に還元するべきだというのである。


ところで20日に09年度予算の財務省原案が内示されたが、国債を乱発し、省庁、族議員らの「カネよこせ」のコールにバンバンこたえる気前のいい内容になっている。新規の国債発行額は7.9兆円増の33.3兆円にも跳ね上がった。


本来、国民のものである金融資産を天下り法人などに塩漬けにし、いつか増税というツケがまわってくる国債の大量発行で、過去最大規模に膨らんだ予算を賄おうというのだから、たまったものではない。


省庁がそれぞれの既得予算枠を主張し、それを積み上げていては、いつまで経ってもその時代に合うメリハリのきいた予算にはならない。官邸がしっかりしたビジョンを持ち、リーダーシップを発揮すれば、ほんとうに必要なところに重点配分し、ムダな“しがらみ予算”を断つことは可能なはずである。


経済危機に財政出動は許されるとはいえ、これでは野放図に過ぎる感もあり、国民の知らぬ間に、財政収支黒字化への「骨太の方針2006」の金看板を捨て去ったといわれてもしかたがない。


しかしこの借金財政の拡大は、与謝野にとって、消費税アップを強く訴える都合のいい口実となった面もある。


「今回の経済対策で借金して巨額のカネ使う。後の世代にその借金をつけ回すという話だ。将来の財政のため、税制の抜本改革をやっておかねば無責任だ」と与謝野はきっぱりと言った。


予算の中身をしっかり議論した風がないのもいささか無責任だと思うが、これが与謝野の固い信念なのだから仕方がない。予算を何に使うかより、税制改革で歳入を増やすことにもっぱら関心があるのだ。


ただ、与謝野のその考えの根底に、「経済成長」という移ろいやすいものへの冷徹な不信が横たわっているとすれば、夢も希望もなく偏狭でもあるが、それはそれで一つの哲学といえないこともない。


さて、3年後の消費増税を盛り込んだ「中期プログラム」は閣議決定されることになるようだが、小泉時代に同じく閣議決定された「骨太の方針2006」が麻生政権で実質的に反故にされた現実を見る限り、閣議決定そのものが軽くなったと思わざるをえない。


予算原案や消費増税に関する21日付の日経の記事に、「内閣支持率が低迷するなかで与党内に冷ややかな空気が漂っている」とある。


それは、自公政権が風前の灯となり、麻生内閣が決める「中期プログラム」の、はかない運命を予感している人が多いということではないだろうか。 (敬称略)


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