ドバイ、「盛衰の造形」から学ぶもの | 永田町異聞

ドバイ、「盛衰の造形」から学ぶもの

世界の余ったカネが、利潤を求めて集まり、そして金融危機とともに逃げていった中東・ドバイ。砂漠を摩天楼に変え、1000メートルビルまで計画して、魅惑のリゾートに変貌しつつあった街は、想像をこえる虚しさのなかに漂っていた。


一昨日だったか、テレ朝「報道ステーション」のスタッフが現地取材し、テレビ画面を通して我々の眼前に突きつけた映像には、「天国と地獄」「栄光と滅亡」が、同じ時期、同じ場所に存在するさまが、映し出されていた。おそらく、このような光景は人類がはじめて目にするものだろう。


人工島にそびえるオブジェのような高級リゾートホテル、華やかなショッピングモール、世界の大企業のオフィスビルが並ぶ金融センター。海と砂漠に出現した未来都市で、どのような人がどんな生活をしているのか。


テレビカメラは、高層マンション群に迫っていた。キャピタルゲインをねらって買い手が群がり、上昇を続けたマンション価格は、金融危機でカネの流れが断ち切られるとともに下落に転じ、値崩れがとまらない。もともと、「住むより投機」のマンションに、人影があろうはずもなく、実態は外観が美しいだけの廃墟である。


人口は120万人といわれるが、住民の90%が外国人で、その60%がインド人らアジアからの出稼ぎ労働者だ。「世界のクレーンの3割がドバイに集まっている」とさえ言われた街のあちこちに、資金不足で建設がストップした工事現場があり、コンクリートと鉄筋がむき出しになっている。大手不動産開発会社が従業員を大量解雇し、仕事を失って故郷へ帰る労働者が増えているそうだ。


「栄枯盛衰」は世の常だが、これまでの歴史のなかでは、それはかなり長い時間をかけて移りゆく変化だった。巨大マネーが世界をかけめぐるグローバル経済の現代にあっては、数ヶ月で世界が一変し、「盛」と「衰」が同時に並ぶ。その事実をビジュアルで分からせてくれるのが今の、アラブ首長国連邦ドバイであろう。


ドバイの政府が必死に否定しようとも、バブルはすでに崩壊している。開発に出資してきた欧米の有力銀行や投資ファンドは、世界金融の目詰まりと原油急落で一斉に資金を引きあげ、ついこの間まで世界の有力企業の株を買いあさっていた中東政府系ファンドもすっかり鳴りをひそめている。


それにしても、世界最高の800mビル「ブルジュ・ドバイ」や、クネクネ動く超高層ビル、さらには1000mビルの建設計画など、ドバイ政府の描く「世界一」の開発イメージに「やりすぎではないか」と違和感を感じた日本人は多かったのではないだろうか。その急速な成長に羨望を抱きつつ、「いつまでも続くはずがない」と思っていた人もいるだろう。


石油が枯渇することを見越し、金融や観光に活路を見出そうとするドバイ政府の目の付け所は悪くないが、オイルマネーを支える原油相場が世界経済の悪化で7月の147ドルから40ドルを割るところまで値下がりして、湾岸諸国のフトコロを直撃する事態になっているのは皮肉なことだ。


石油の枯渇をあおって、価格を吊り上げてきた利権勢力も、ここまでは想像できなかったのだろう。OPECの減産も価格下落を止める効果は今のところなさそうだ。それどころか、このまま経済停滞が長引けば、石油の枯渇などはるかかなたの未来に飛んでいくかもしれない。


いずれにせよ、世界がこの急変ショックで欲深き夢から目を覚まし、ドバイの「盛衰の造形」を眺めながら、何らかの知恵をつかみとることができれば、それはそれで一つの進歩といえよう。


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