消費税をめぐる政治力学の難問を麻生首相は解けるのか | 永田町異聞

消費税をめぐる政治力学の難問を麻生首相は解けるのか

経済財政相、与謝野馨は「定額給付金」をめぐる迷走に嫌気がさし、長い間、不機嫌な顔つきだった。麻生発言のブレにも不信感は隠せなかった。


昨日夕、麻生首相が「急なことではありますが、ぜひ国民の皆様にお話したいことがあり…」と切り出して開いた記者会見では、その与謝野が麻生の傍らに控えていた。


与謝野はその朝、「麻生首相の口から出た“3年後”という言葉は、魂を得て永田町・霞ヶ関界隈を飛んでいる」と記者団に語った。


自民・公明両党が「与党税制改正大綱」に消費税引き上げ時期を明記しないことに、彼独特の表現で不快感を示したのだ。


麻生首相は10月30日、「定額給付金」を打ち出した会見で、「3年後の消費増税をお願いしたい」と国民に呼びかけた。そして、今月11日夕、与謝野に「3年後の消費増税を中期プログラムにきちんと反映してほしい」と指示した。


麻生首相と与謝野は、税制抜本改革の道筋を示す政府の「中期プログラム」を年内に閣議決定するつもりだ。そのために、まずは与党の「税制改正大綱」に消費増税時期を盛り込まねばスムーズにコトが運ばない。


与謝野はそのシナリオ従って動いた。財政再建派の急先鋒である与謝野はもともと「定額給付金」という、バラマキ政策が気に食わない。それをやるのなら「3年後の消費税アップ」は、公明党が何と言おうと譲るべきではない。与謝野は不退転の決意だった。


しかし、首相の指示に、もはや力はない。昨日まとまった「税制改正大綱」の自民党原案は「消費税を含む税制抜本改革を2011年度に開始する」と首相の意向に沿った中身だったが、衆院選への悪影響を恐れる公明党に押し戻され、「経済状況の好転後に速やかに実施」と書き改められた。


それを受けて前述の「魂」発言が与謝野の口から飛び出した。一時は無力感が漂っているように見えた。


「消費税に関しては完全勝利だ」(日経)。公明党幹部は喜びの声を上げたが、その数時間後に、麻生・与謝野ラインの反攻が待っていた。それが昨日夕の記者会見である。


麻生首相はこの会見で、「経済情勢をみた後、3年後の引き上げをお願いしたい。この立場は全く変わっていない」と強調した。


会見後、麻生首相は与謝野に何やら声をかけて、会場を去った。朝日新聞によると、「これでいいんだろう」と首相が言い、与謝野は深々と頭を下げたという。与謝野は朝の会見で「大綱」への落胆を示したあと、麻生首相に「方針堅持」を強く進言したのだろう。


これでおさまらないのは公明党だ。「与党合意は何なんだ」と怒りの声が上がった。北側一雄幹事長はこの夜、麻生首相のいきつけのホテルのバーに向かったが、どんな話し合いになったのかは定かでない。北側の不満を抑えるのは大変だったに違いない。


「定額給付金」をごり押しし、政府与党の緊急経済対策の柱とした公明党は、所得制限発言で混迷のきっかけをつくった与謝野への不満を募らせていた。消費税をめぐる政府与党内の亀裂は、麻生首相のリーダーシップの欠如によってさらに深まった。


麻生内閣が、与党の大綱を無視し、「3年後の消費増税」を「中期プログラム」に盛り込んで閣議決定すれば、公明党との全面衝突に発展する可能性も否定できない。さりとて、公明党に配慮して首相の方針がまたまた覆るようだと、与謝野も黙ってはいまい。


一方、自民党内にも「3年後の増税を前提にカネをばらまいても景気浮揚の効果はない」という意見が多い。「3年後の増税」を盛り込むことで、自民党のお家騒動がさらに深刻化する恐れもある。


複雑に絡んだ政治力学の難問に、名参謀のいない麻生首相の頭が“空中分解”しそうな雲行きである。 (敬称略)


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