雇用保険料のカネ喰い機構、見せかけの廃止 | 永田町異聞

雇用保険料のカネ喰い機構、見せかけの廃止

トヨタも、キャノンも、ソニーも、人を人とも思わず切って捨て、一体何を守ろうというのか。経営陣が苦しみから逃れるために、大切な倫理や責任感を放り出した巨大企業。そのつくり出す雇用不安が、日本の社会の真っ暗な奈落の底をのぞかせる。


そんなおり、「スパウザ小田原」や「私のしごと館」などムダなハコモノをつくって、大切な雇用保険料を巨額浪費してきた独立行政法人「雇用能力開発機構」が、別の組織の看板にかくれて温存されることになった。


国会と内閣の間を巧みにコントロールし、思うがままにこの国を牛耳る官僚たちの「共同体」保存本能は、今回もまた、新たな隠れ蓑を見つけ、自己実現を遂げた。


発表によると、雇用能力開発機構を廃止し、業務の大部分を同じ厚労省所管の独法「高齢・障害者雇用支援機構」に統合させる、という。「私のしごと館」は売却などを検討するというが、どうも現段階でははっきりしない。


甘利行革相と舛添厚労相は、これで互いにメンツを立てたつもりなのだろう。「廃止」という言葉によるごまかしで、改革担当としての甘利はいちおう仕事をしたことになるらしい。舛添にすれば、実質、組織が温存されるのだから、官僚たちに「よくがんばりましたね、大臣」と賞賛されるわけだ。


もともと、独法改革は元行革相、渡辺喜美が昨年来、熱心に取り組んできた。100をこえる独法には、民間や地方自治体でやれるものが多く、渡辺は7~8割は要らないと指摘した。そのなかでも、とくに改革の目玉としていたのが「雇用能力開発機構の廃止」だった。


この機構の主要事業である失業者向けの職業訓練は、地方自治体や民間委託でもおこなわれており、存続の必要性はない、というのが渡辺の主張だった。


もちろん、渡辺だけの考えではない。平成13年、内閣官房の行革断行評議会は、当時まだ特殊法人だった「機構」を次のように断罪している。


「雇用保険からの交付が2,301億円もある。機構は本来の目的を逸脱して事業拡大している。雇用保険はその正当な持主である失業者へと全額返還されるべきであり、中間搾取をすべきではない。よって機構の即刻廃止、解体を提案する」   


ところが、機構は特殊法人から独立行政法人に看板を替えて温存され続けた。445億円の雇用保険料で建設したスパウザ小田原を8億5千万円で小田原市に売却したのは、機構の「悪業」のごく一例に過ぎない。   


にもかかわらず、渡辺の独法改革潰しに動いたのが当時の二橋正弘官房副長官で、101法人を86に減らしてお茶を濁すことに成功した。雇用能力開発機構や都市再生機構など肝心なものについては、結論先送りとなり、渡辺喜美は切歯扼腕した。


福田内閣改造で、渡辺が退任し、後釜に茂木敏充がついてすぐ、雇用能力開発機構をめぐる状況が変化したかに見えた。茂木が「機構」の解体方針を明らかにしたのである。ついこの間、8月のことである。


多くの国民がこの方針に期待したことだろう。茂木はかなり本気だったし、福田首相も後押ししているように見えた。しかし、それも虚しかった。麻生政権になり、甘利明が行革相になってから、ガラリと風向きが変わったのである。


「官僚は上手に使えばいいんだ」という麻生政権は「官僚にうまく使われる」政権であった。


廃止・統合という見せかけの改革に、われわれは騙されないようにしたい。


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