なれあい雇用対策、このむなしい猿芝居 | 永田町異聞

なれあい雇用対策、このむなしい猿芝居

小手先の政治が続いている。大企業が非正社員を大量に切り捨てはじめ、社会不安が増して、犯罪の増加も懸念されるというのに、政府はただ迷路の中を動き回っているだけだ。


霞ヶ関の官僚は麻生内閣を「選挙管理の暫定内閣」と見切って、本気にならず、予算編成はままならない。麻生首相ができることといえば、あいかわらずパフォーマンスしかない。たとえば、この猿芝居はどうだろう。


今月1日の月曜日に、財界首脳と会い、4日の木曜日に労働組合のトップと会う。かなり以前から予定されていたことだ。


月曜日、官邸にやってきたのは御手洗冨士夫・経団連会長と岡村正・日本商工会議所会頭だ。御手洗といえば、あくどい大量偽装請負で問題になったキャノンの総帥である。景気悪化で、われ先に非正規社員の首切りをやりそうな会社のドンが財界トップというのも、日本の実態をあらわしている。


麻生首相は「景気がドーンと落ちている」と、分かりきっていることをくどくど述べたあと「雇用安定や賃上げの努力をしていただきたい」と要請した。


岡村は「賃上げより雇用安定を重視したい」と分かりやすく語ったが、御手洗が「雇用安定」に言及したふうは、少なくとも報道からはうかがえない。ただ「賃金交渉のスタンスは検討のさなかで、本日の要請をふまえさらに議論したい」と役人のようなことを言った。


しかし、日経を読む限り、雇用確保への「努力」では、首相と財界トップの意見が一致したことになっている。


それでも、会議のための会議、要請のための要請という胡散臭さはプンプン漂っていた。「検討」とか「努力」とかいうのは、話が前向きでない証拠である。お互い、抱える事情が分かっていて開かれた、「あうんの呼吸」とでも言うような、いわばセレモニーに過ぎなかったのではないか。


そして、4日の木曜日午後に、官邸を訪れたのが連合の高木剛会長だ。当然、高木はこう要請する。


「解雇・雇い止めで仕事や住む場所を失う労働者を支援してほしい」


これに対して、麻生首相は「経営者には雇用の確保につとめてもらいたいと先日も経団連に伝えた」と、月曜日の会談のむなしい“成果”を強調した。ここにも、労働団体から言われる前に財界トップと会って雇用への積極姿勢をアピールしておきたかったという、麻生官邸の思惑が見え隠れする。


この日、キャノンの子会社、大分キャノンが年内に請負従業員1100人を削減するという見通しが報じられ、夜には、東京・日比谷野外音楽堂に2000人の非正社員や労組関係者が集まって、「派遣社員はモノじゃない」と抗議の声を上げた。


昨夜のテレビで、ぶら下がり会見での麻生首相がいつになく記者団に愛想をふりまいていたのを怪訝に思った人も多いだろう。今日の朝日も「ニコニコ急接近」「記者対応なぜか一変」と書いている。


就任直後には「逆質問」が目立ち、その後、失言問題が重なるとメモを見ての受け答え。そして、昨日からはニコニコ作戦に変わって、記者たちも逆に戸惑っているそうだ。


いろんな人がいろんなアドバイスをして、あっち向いたりこっち向いたり。分刻みで1日数十人と次々会っていたら、頭も正常に働くまい。一人ひとりの言うことはいちいち道理にかなっていても、それらの価値を総合するにはゼネラリストの存在が必要だ。でなければ、「合成の誤謬」に陥ってしまうのは必定である。


宰相自身がゼネラリストであれば言うことないが、そうでなければ、ゼネラルな思考のできる人物を探し出して側近に登用するしかない。


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