岡っ引き、職人、ご隠居でごまかす「後期高齢者医療」への新聞の責任 | 永田町異聞

岡っ引き、職人、ご隠居でごまかす「後期高齢者医療」への新聞の責任

どうやら新聞各紙、後期高齢者医療制度についての正面切った議論は避けたいようである。昨日から年金天引きがはじまって、さてどう扱ってくれるのかと、今朝の紙面に目を通したら、案の定、朝日、日経、産経は名文家たちのコラムにこの問題を託している。

朝日の天声人語はまず、「職人の手間賃を差っ引く親方」の話があって、「バタバタと動き出した新制度は、保険料の誤徴収、保険証の未着と混乱の中だ」と続く。

日経の春秋には、必死に否認する老人に手荒な真似をした「若い岡っ引きの文五」が登場し、「周知徹底せず、不手際だらけの後期高齢者医療制度」と、話をつなぐ。

産経抄も「後期高齢者の名をつけたお役人はよほど頭が悪いか横町のご隠居が登場する落語を聞いたことのない人種だろう」からはじまって、「ろくすっぽ説明してこなかった政府」の責任を問うている。

この三紙は時代劇ふうの世界から入って、厚労省という現代の腐敗を象徴するお役所の不始末をなじっている。ただし、共通しているのは制度そのものの是非を問う姿勢が全くないということだ。

ここから読み取れるのは、制度そのものにいまさら文句をつけるのは、自分たちの首を絞めるようなものだという編集幹部の思いである。

「後期高齢者医療制度」が国会で可決されたのは2006年6月のことだ。前年9月、小泉純一郎率いる自民党が総選挙で歴史的大勝利をおさめ、翌年2月、民主党がライブドアの偽メール騒動で自滅した直後の政治状況は、自民党独裁による「権力の暴走」の真っ只中にあった。

小泉劇場に、マスコミも酩酊状態であったのか、ドサクサ紛れに採決された「後期高齢者医療制度」が、ほとんどテレビや新聞で問題視されることはなかった。75歳以上の老人だけを引き剥がした医療制度がのちにどれほどの問題を引き起こすかという想像力は全く欠如していたのだ。

議会で圧倒的多数を占め、緊張感が緩み、厚労省の説明を鵜呑みにした政府与党、お粗末だった野党、そして政争やスキャンダルの報道に明け暮れたマスコミ。それらの“共同正犯”が、お年寄りたちの悲嘆を招くことに、いまここにいたって気づいた新聞人がどのツラ下げて、この愚策をまともに批判できようか。

15日、なぜかこの制度をつくったはずの自民党本部で、「後期高齢者医療制度説明会」なる会合が開かれ、多くの自民党議員が出席して、厚労省の担当者から説明を受けた。

会議から出てきた加藤紘一は説明会の様子をこう話した。「かつて一度OKしたんだけども、騒ぎがあって、説明聞いてみると、そういえばそういうことだったなあと、思い直したという感じの会議でしたね」

まるで他人事のような話しぶりだ。自分たちが決めたことではないのか。当時、誰もが何も考えていなかった証拠である。騒ぎにならないと本気で法案を読まない国会議員がいて、誰かがレクやリークしてくれないと記事が書けないジャーナリストがいる。これが日本の現実である。一般庶民はただ、ため息をつくしかないのだろうか。

                              (敬称略)