新聞の未来とマードック | 永田町異聞

新聞の未来とマードック

「新聞は生き残れますかね」。
ある大手新聞社の編集幹部が本気で心配している。
本格的なネット時代を迎え、若者の活字離れが顕著だ。新聞の将来はどうなるのか。新聞の価値はどこに見出せばよいのか。

僕も正直なところ、見当がつかない。ただ、このままではいずれ新聞が儲からないビジネスになることだけは確かだと思う。

しかし、新聞社の情報収集力、編集スタッフの陣容は日本のマスメディアの中で群を抜いている。
情報の質の高さは、やはり新聞にこそ求められる。新聞が他のメディアと同じ土俵に乗り、娯楽や低俗記事で読者をひきつけようとすれば、たちどころに信頼を失い存在基盤が危うくなる。

ところで、かのメディア王、ルパート・マードック氏が、ウオールストリート・ジャーナル紙(WSJ)の発行元、ダウ・ジョーンズ(DJ)を買収しようとしている。
マードック氏といえば、4大ネットワークの一つ「FOX」テレビ、アメリカ最大の衛星放送会社「ディレクTV」、映画会社「20世紀フォックス」、イギリスを代表する高級紙「タイムズ」、大衆紙「サン」「ニューヨーク・ポスト」などを所有するニューズ・コーポレーションの総帥だ。

彼の狙いの一つは、ニューズが年内に開局する経済専門チャンネルで、DJ(WSJ)のニュースを活用することだといわれている。

先行するGE傘下の経済専門チャンネル「CNBC」は、すでにDJからニュース提供を受けるなど提携関係にあるため、コンテンツを奪われることに危機感を抱き、マイクロソフトに共同買収を持ちかけた経緯があったほど。その話はすぐに立ち消えになったが、DJのブランドはそれほどに影響力を持っている。

総じて欧米では、メディア企業はコングロマリット化に向かっているといえる。それは、まず広告媒体としての価値が上がるから。そして、資本力が大きくなると、十分な制作費をかけた番組で高視聴率を獲得できるから。

また大きな映画会社を持っていれば、ケーブルテレビにも地上波にも衛星にも流せる。オリンピックやワールドカップなどの放送権を得るには巨額の資金が必要だが、それらのキラーコンテンツを押さえられる資本力がないと競争に勝っていけない。また、欧米ではケーブルテレビやインターネットが非常に大きなメディアになってきているという事情もある。

こうした中にあって、当然、新聞のありようも変わってくる。これまでは一日2回の紙面に情報を流すだけだったものを、グループ内のテレビやネットに流すことができ、一人の記者の生産性がアップする。

マードック氏のメディアグループは▽タイム・ワーナー▽ウォルト・ディズニー・カンパニー▽バイアコム▽ゼネラル・エレクトリック(NBCユニヴァーサル)と並び称されるメディアコングロマリットである。

しかし巨大メディア化には批判的な意見も多い。

「企業として巨大化すると、メディアとして真実を追究する使命を軽視し、経営の論理や株価を優先する傾向が強くなる」。

編集の独立性は報道機関の生命線である。経営権が編集に介入することは報道の公平性、客観性を損ない、読者の信頼低下につながるということだ。

マードック氏に関しては特にその点を危惧する向きが多い。

WSJについてニューヨーク・タイムズが6月10日付紙面で異例の社説を掲載した。

「競合紙を褒めることはないが、質の高いバランスの取れた報道をしているWSJが、報道の品質や高潔さを失う恐れがある」。

他紙がマードック氏の買収計画に強い懸念を表明したのだ。

1981年、マードック氏が買収した世界最古の日刊新聞といわれる高級紙、英国のタイムズ紙は、マードック氏の保守的政治思考が紙面に反映されることも多いといわれる。ニューヨーク・ポストは、歴史のある新聞だが 1969年にマードック氏が買収、露出の多い女性の写真が売り物の一つになった。

DJの創業者、バンクロフト一族は、編集権の独立性を確保する内容で合意した場合に限り、ニューズとの交渉を継続するとの方針で、DJの各ブランドの使用を制限することを強く求めるとみられる。ただ、マードック氏にしてみれば所有する様々なメディアにそのブランド名を使用したいはずだ。

また、DJについては英経済紙フィナンシャル・タイムズの親会社、ピアソンも買収を検討していることが最近、明らかになっている。

世界を代表する老舗経済紙をめぐる買収騒動。新聞の将来像にも思いを馳せながら、しばらく注目していきたい。