サウジの王族と「死の商人」 | 永田町異聞

サウジの王族と「死の商人」

今年2月18日、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビで「IDEX-2007」が盛大に開幕した。兵器の国際見本市であり、世界から数百の武器メーカーが参加して最新兵器を展示した。

1993年から隔年で開かれている「IDEX」は年々、規模が拡大している。もちろん、主なお客さんは中東諸国から集まってきた軍幹部たちだ。

なかでも、イスラムの盟主国的存在、サウジアラビアの動きは注目の的だ。この国のオイルダラーと膨大な軍事予算を目当てに、世界の軍需産業はし烈な売り込み合戦を繰り広げる。

先日、ドイツで開かれたハイリゲンダム・サミット(G8)の最終日、英メディアから一つのニュースが飛び込んできた。退陣間近な英国のブレア首相とブッシュ米大統領が名残を惜しんでいる最中だった。

イギリスの航空防衛産業大手、BAEシステムズがサウジアラビアに売った戦闘機をめぐり、契約責任者だったサウジのバンダル王子に約2400億円の裏金を渡していたという疑惑だ。それについてブレア首相のコメントを取ろうと記者たちが取り囲んだのだ。

この事件は1985年のことだが、BAEからの支払いは最近まで20年近く続き、米国の銀行にあったサウジ大使館名義の口座などに振り込まれていたという。

バンダル王子は疑惑を全面否定。BAEは金の支払いを認めているものの「両政府が合意した契約であり、明確な承認を得ていた」と合法性を主張している。

欧米メディアはこれまでにも、英当局がBAEからサウジ政府への贈賄疑惑を捜査していると伝えていた。しかし、ブレア首相は昨年末、捜査の打ち切りを指示した。サウジとの関係悪化を懸念した判断だったとみられている

サウジアラビアはサウード家による絶対君主制で、要職は世界で最も多いといわれる王族が独占している。
 
バンダル王子は駐米大使を22年間務め、歴代の米政権と強いパイプを築いたが、なぜか2005年7月「個人的理由」で大使を辞任した。
ブッシュ家とは家族ぐるみの付き合いがあり、ブッシュ大統領は、テキサス州クロフォードの私邸兼牧場にバンダル大使一家を招待したこともあった。

サウジは原油・石油製品の輸出で大幅な貿易黒字を維持している。特に2005年から2006年にかけて原油価格が高騰し莫大な利益を得た。いわゆる、最強のオイルマネー国家だ。このため税金はなく、福祉は無料、住宅もダダで国民に支給される。これだけ見ればパラダイスだ。

しかし、コトはそう単純ではない。わが国でいう「ニート」。つまり働かない若者が極端に増えているのである。豊かな生活に慣れきった人々はつらい仕事を嫌がり、公務員や管理職など高い地位の職業しか求めない。結局、出稼ぎにきた外国人労働者が働いて底辺を支えるという構造になっている。

しかも王族の豪奢な暮らしがエスカレートする一方で、人口は急激に増加し、石油依存による経済無策から、今後の国民の暮らしについての不安が高まってきている。

そうした状況下で、ごく一部だけのぞかせた、王族と欧米軍需産業の癒着。それが今回の裏金疑惑といえよう。

さて、先進各国や新興国はオイルダラーにヨダレをたらしつつ、脱オイルをめざしている。いずれ石油など化石燃料が枯渇するのを見越してのことだ。サウジは「いくらでも石油はある」というが、「採掘のピークは過ぎた」と指摘する専門家も少なくない。

そもそもこの国には内閣も国会も存在せず、国王の命令が全てである。しかも厳重な報道管制で、外国マスコミの内政事情取材を一切許さない。本当のところは全く分からないのだ。

国民の不安をよそに、社会構造の変革を進めず、王族が欧米企業と癒着して豪奢な生活を続ければ、先に何が待ち受けているのだろう。