ロシア売り加速、プーチン柔軟外交に転換?
怖い国だと思われたら世界のおカネが逃げていく。そのことにプーチン首相も気がついたのだろうか。「ロシアには帝国主義的な野心はない」と11日、ロシアのソチにおける世界有識者会議で表明したそうだ。
たしかついこの間、メドベージェフ大統領が「冷戦再来の展望も含め、何もわれわれを恐れさせることはできない」と強気なことを言っていたはずだが、どうしたことか。
グルジアへの軍事介入以来、マーケットでは「ロシア売り」が続いている。11日の株式市場は、主要銘柄が軒並み年初来安値を更新。外国為替市場も、ルーブルが1.7%下落した。
たまらず、ロシア中央銀行はドルを売ってルーブルを買い支え、メドベージェフが「軍事作戦の大部分は完了した」とコメントを出して、市場を落ち着かせた。
このころ、ソチの会議に臨んでいたプーチンは「ロシアと西側諸国との間には、イデオロギーの対立も、新冷戦のための素地もない」(朝日新聞)と、ジェントルな姿勢一辺倒。ひところの傲慢さは影をひそめた。
ロシアの強気の背景にあったのは、現代文明を支える石油の埋蔵量が世界二位、天然ガスは世界一という資源所有のパワーだ。資源高を背景に、急にカネまわりがよくなった国民の平均所得は10年前に比べ6倍になり、狂ったように消費を謳歌している。
それゆえ、製造業は人件費によるコスト高で、世界市場における競争力は弱い。資源高と外国からの投資が頼りのロシア経済に、ミサイルを撃ち込んだのが米国のサブプライムショックだ。
これをきっかけとした世界不況とインフレ、そして各国の省エネへの取り組みで、石油需要が落ち込む見込みとなった。そこにグルジア紛争が起きた。今年5月に最高値をつけた株価はみるみる値を下げ、ルーブル相場も7月16日から低落傾向。「ロシア売り」が加速し、ロシア経済の先行きは急速に不透明感を増している。
ロシア中央銀行のコリシチェンコ副総裁は「ロシア経済成長のモデルは変化を余儀なくされる。海外からの資金流入は昨年後半から急減少している」(日経新聞)と語る。
経済が悪化すれば、プーチンの権力基盤が揺らぐ。不正選挙や言論弾圧などやりたい放題でも、国民の懐が暖かいうちは不満の噴出は避けられる。いったんおぼえた贅沢な生活を変えるのは容易ではなく、プーチンにのしかかるプレッシャーはさぞきついことだろう。
グローバル経済の恩恵を受け、王朝の栄華を夢見たプーチンが、ルーブル建て原油取引で米国への外交カードを握ったとたん、“サブプライムミサイル”によるグローバル経済のしっぺ返しにあって、あたふたしているように見える。
またぞろ、北方領土をエサに日本からカネを引き出そうとしても、そうは問屋がおろさない。 (一部敬称略)
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