魂のアンジェリーナ | 永田町異聞

魂のアンジェリーナ

Photo_1 国連が定めた「世界難民の日」というのがある。6月20日。欧米のメディアはそれぞれ特集を組んだ。

といっても、日本のテレビはほとんど無関心。世界が抱える重要課題の一つなのに。

「グローバルな時代」を絶えず唱えておきながら、国内のさほど珍しくもない事件のニュースを長々と流し続ける。それがが日本のテレビ局である。

もっとも、イラクやアフガンなどで多くの難民をつくりだしたアメリカがこの問題を放っておいてはどうしようもない。

CNNテレビは当然、難民問題を特集し、特別ゲストへのインタビューを放映した。

ゲストの一人は女優、アンジェリーナ・ジョリーだった。ぼってりした唇と大きな目が特徴の個性的な美人女優である。

インタビューのなかで、彼女はこう語った。

「アメリカにいるより、難民キャンプにいるときのほうが楽しいわ。みんな苦しくて大変な生活の中で、とっても力強く生きているから」

彼女が難民キャンプで、こどもをしっかりと抱きかかえるシーンが流れる。

昨年、ブラッド・ピットとの間に女児が誕生したが、それ以前にカンボジア人の男児、エチオピア人の女児、ベトナム人の男児をそれぞれ養子にしている。もちろん難民の子供たちである。

「今は朝起きて生きていることが楽しい。仕事をしているときはこどもたちの面倒をブラッドにみてもらってるのよ」

収入の三分の一を難民の救済に当て、仕事の合間を縫って世界中の難民キャンプをたずねている。

彼女はもともとこういう活動をするイメージの女優ではなかった。1999年『17歳のカルテ』でアカデミー助演女優賞を受賞した実力派ではあったが、私生活において略奪愛など特異な面が報じられ悪い印象を世間に与えていた。

しかし転機は2001年にやってきた。

国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) のホームページに以下の記述がある。

2001年初め、アンジェリーナ・ジョリー氏から難民を支援したいとの問い合わせを受けた。ジョリー氏はまもなく、コートジボワール、タンザニア、シエラレオネを数週間にわたって訪問し、難民と交流し、UNHCRの職員とともに活動した。
その後、カンボジア、パキスタンのアフガン難民を訪問。そして、UNHCR親善大使に任命された。
これまでに訪問したのは、前述の三国のほかパキスタン、カンボジア、タイ、エクアドル、ケニア、ナミビア、コソボ、スリランカ、ロシア、ヨルダン、エジプト、チャド、スーダンのダルフール地方、レバノンなど。2003年10月、ジョリー大使は難民情勢を世界のメディアに伝えた功績を認められ、国連記者協会から第一回「国連記者協会賞」を受賞した。  

インタビューでは何故、難民に関心を持ったのかという話題は出なかった。しかし、彼女がスキャンダラスな誤解や中傷に悩み、魂が傷つき、自省と自問自答のなかから、一歩を踏み出した。その先が「世の中の恵まれない人たち」に手を差し伸べることだったのではないだろうか。

人は誰しも自分というものに囚われ、がんじがらめになって悩み、もがき、苦しむ。そんなとき、「他者に手を差し伸べることによって自分自身が救われた」という経験を持つ人は多い。

誰も一人では生きられない。90歳をとうに超えた聖路加病院名誉院長、日野原重明先生はいまでも病室を回り、患者の手をとって話を聞いてあげるという。先生の手の温もりを感じた患者のかすかな喜びの鼓動が伝わり、先生自身も嬉しいのだ。

人間は自分だけに囚われていると、決して本当の幸福感は得られない。際限ない欲望の虜となって自滅するだけだ。

「あまりにひどい暴力、虐待、恐怖に住民が苦しめられているの。世界はミャンマーやダルフールで何が起きているか明らかにしないといけない。このような状況を作った人にどうしても説明責任を果たしてもらいたい」

アンジェリーナの魂の叫びである。