米9.11ビル崩壊メカニズムを解析、超高層時代の日本に教訓 | 永田町異聞

米9.11ビル崩壊メカニズムを解析、超高層時代の日本に教訓

その調査内容を見て、日本建築学界のメンバーは大きな不安に駆られていた。9.11アメリカ同時多発テロ事件に関し、米国連邦危機管理庁(FEMA)から被害調査報告書が公表された2002年5月のことである。

実は、この詳細なレポートに、抜け落ちている項目があった。高層ビル建築に関わる者なら、誰もが知りたい部分。2棟のWTCビルに突入した2機の飛行機が、建物をどう破壊し、建物からどう破壊されたか、というシミュレーション解析である。

日本ではそのころ、すでに超高層ビル建設のラッシュが始まっていた。
70年代の新宿副都心の高層ビル群からスタートし、90年代に入ると横浜ランドマークタワー(1993年、296m、70階)▽大阪ワールドトレードセンタ(1995年、256m、55階)など200mを超えるノッポビルが次々と姿を現した。

2000年を過ぎるとペースがさらに加速し、今では100m以上のビルが500棟以上にもなっている。

地震国ニッポンでは、高層建築における免震・制震・耐震すべての技術を組み合わせて地震対応の安全性を確保する設計が進められてきた。しかし、航空機激突、あるいはテロの標的になりうるモノとしての観点から構造設計を考えていたかというと、答えは「ノー」であろう。それだけに2001年9月11日のWTCビル崩壊は大きな衝撃だった。

建築学会では9.11に関する日本独自の調査にとりかかった。WTCビルの崩壊過程についてシミュレーション解析に取り組んだのは鹿島のプロジェクトチームだった。

このほどネット上でも公開されたそのシミュレーション解析結果は、航空機がビルに突入してからのわずか1秒間、建物内部に起こった出来事を、克明に再現している。

WTCビルは二つともほぼ同じ構造である。417m、110階建て。外周は63.14mの正方形、1mピッチで240本の柱がめぐらされていた。ビルの中には47本のコア柱があり、建物の重量の60%を支えていた。

WTC2ビルのケースを説明しよう。午前9時03分、燃料30トン満タンのユナイテッド航空機は時速943キロの速度で78-85階の南面から、水平面より5度下向きに激突した。

航空機はコア柱をなぎ倒し、床を貫通して“二枚おろし”に引き裂かれながらバラバラに分解した。

わずか1秒間ですべては終わり、航空機は断片だけになった。建物は10秒間、揺れ続けた。
エンジンは硬度が高いため壊れず、右エンジンが、81階の窓から飛び出し、シミュレーション解析の計算上で450メートル先に落下した。実際にも、計算どおりの場所で原型を保ったエンジンが発見されており、この解析の正確度を証明した。

鹿島の小堀鐸二研究所スタッフは指摘する。
「コア柱があれだけ分断されていると、突入部より上部からの崩壊が一気に起こってもおかしくはなかったが、それだけは防げた。最終的にビル全体が高熱による鉄骨の体力低下で崩落するまでの56分間の避難時間が生まれた」
どうして衝突直後の倒壊を免れたかについては「最上階から107階にかけてトラスを構築し、柱を吊り上げる構造にしていたのが幸いした。」と分析する。トラスは法的には必要とされていないものだ。

今後、超高層大国としての道を歩むのが確実視される日本としては、予測される東南海地震の長周期振動対策はもちろん、火災やテロ、航空機衝突などの不測の事態への対応策を講じておくことが大切な時代になってきた。

「超高層ビルは万一のときの被害が甚大だ。建築基準法という、通り一遍のものでよしとせず、予測できる全ての危険を想定した設計が大切だ」と小堀鐸二研究所は結論づけている。