都会温泉ブームの浅はかさ | 永田町異聞

都会温泉ブームの浅はかさ

人間はなんという愚かな生き物だろう。東京の都心部にある温泉施設で起きた爆発事故は、儲けのために地球を1500メートルも掘り下げて温泉を汲み出した業者の、大自然を侮り破壊するとんでもない所業の結果だといえる。亡くなった方々はその痛ましい犠牲者だ。 

地下からくみ上げた温泉水に混じった天然ガスが施設に充満し、何らかの原因で引火した。 警視庁と東京消防庁はそのように見ている。

当然のことだろう。東京都を中心にした南関東一帯の地下には、可採埋蔵量が約4000億立方メートルにも達する、わが国最大の水溶性天然ガス田「南関東ガス田」が広がっているのだから。

水溶性天然ガスとは、生物起源のメタンガスが、地下の地層水の圧力で溶解したものといわれる。天然ガスは地下1000メートル付近に豊富にあり、温泉は1500メートル掘れば、火山国日本ゆえ東京のどこでも噴き上がるという。天然ガスが1500メートルの地下から湧き出す温泉に混じって出てくる可能性があるのはあたりまえのことだ。

都は掘削の許可にあたり十分なガス対策を事業者に指導しているというが、そもそも根本的な危険性をもっと認識する必要があろう。

資源の乏しいわが国で、貴重な大規模ガス田が地下に存在することもこのさい、しっかりと考えてもらいたい。

昨今、東京や大阪などの大都会で「温泉」ブームだという。銭湯がしだいに姿を消し、豪華で娯楽設備を備えたリラグゼーション空間としてニュータイプの「温泉」が登場してきた。儲かるとなれば同じような施設がどんどん生まれてくる。こんなことでは東京は地下1500メートルの穴だらけになってしまう。

そもそも土地を購入すれば、その地下はどこまでも個人のものなのだろうか。

関係法令としては平成十三年に大深度地下使用法というのができた。これは三大都市圏における地下四十メートル以深の空間について、公共性を有する道路、鉄道、電気などの事業者に対し、事前に補償を行うことなく使用権を設定することができるというものだ。要するに、地下についてはこれくらいの決まりしかない。

温泉法は昭和二十三年に成立したが、大都市で1500メートルを掘るということがそもそも想定されてないのだ。したがって、結論的に言えば、温泉掘削で1000メートル掘ろうが、1500メートル掘ろうが個人に使用権があるということになっている。

しかし、僕に言わせれば、地下1000メートルの所有権なり使用権を認めるのなら、それなりの代金を国が徴収すべきではないだろうか。地下10メートルくらいならともかく、深いところは国民共有、いや地球人類の財産である。

今回の事故は、地球誕生以来静かに眠っていた千五百メートルの地下を突いて突いて、かき回した傲慢な人間に対する大自然の強烈な怒りである。