「新冷戦」を超える米ロ首脳「金儲け外交」 | 永田町異聞

「新冷戦」を超える米ロ首脳「金儲け外交」

コーカサス山脈をのぞむ黒海沿岸の美しい町「ソチ」。2014年冬季オリンピックの開催地でもあるロシアのリゾート地に、ブッシュがプーチンに会うため、やってきた。

何のために会うのか。もちろん、米ロに横たわるとされる「新冷戦」の解消。とりわけ、米国がチェコ、ポーランドに計画しているミサイル防衛(MD)施設建設にロシアが反対している問題の解決をはかるため、であろう。

しかし、ここであえて、ホンネの部分、つまり首脳間ビジネスの側面にも留意しておきたい。リアル外交の目的は「金儲け」である。ブッシュのスポンサーは石油メジャー。イラク戦争の主目的が中東石油利権の確保にあったことはもはや明らかだ。

米国の石油はあと10年もすれば枯渇する。中東とロシア、カスピ海沿岸の旧ソ連諸国にはまだまだ石油は豊富に眠っている。天然ガスも豊富だ。世界中の資源を貪欲に狙う中国の脅威を感じつつ、アメリカは「新冷戦」状況と現実的な折り合いをつけながら、経済面でロシアとの連携を深めていく必要がある。

この側面から、新聞各紙の関連記事や論調をながめてみた。まず、朝日は「MD建設計画については両国の立場の違いは埋まらず」。産経も「新冷戦状態の解消は先送りされた」と書き、無難なタテマエ論にとどまった。今回の会談で「新冷戦の解消」が進むと考えた人がいるとは思えない。この二紙の場合は、あえていうなら紙面づくりのための記事に過ぎない。

朝日は「プーチン氏と個人的な友好関係を築いたブッシュ氏が政権にいる間に、メドベ-ジェフ氏と協力関係を進める道筋がつけられた意味は大きい」と書いたが、これはその通りだろう。

さて、経済紙である日経は、「ソチ宣言は安全保障から経済まで包括的な二国間協力の柱を掲げ、冷え込んでいた米ロ関係の修復に向けた足がかりとなる」と前向きに捉えている。ようやく経済協力の文字が出てきた。

では、経済協力の中身は何か。合意された「戦略的枠組みの要旨」のなかに、次の記述がある。

二国間貿易と投資拡大の潜在力は大きい。両国とも国内外の法を尊重し、開かれた市場経済の基本的な原則に従わなければならない。米ロは新たな相互投資条約締結に向けた努力を続ける。

「相互投資条約」。これが今回の会談の要諦ではないだろうか。

ロシアはロシア原油先物市場を開設し、あろうことかルーブル建て取引にして、「ドル防衛」に躍起の米国を揺さぶっている。しかも、ロシア中央銀行は外貨準備におけるドルの比率を引き下げる考えだ。

基軸通貨としてのドル体制を崩壊させたいわけではない。ドルが暴落し世界恐慌が起こればロシア自体が困るからだ。むしろ、米国との間の投資や貿易を有利に運ぶための、切り札として「ルーブル」による脅迫をおこなっていると考えられる。

この駆け引きに、ブッシュや米産業界が反応し、「開かれた市場経済の基本的な原則に従い、相互投資条約締結に向けた努力を続ける」という文言に結びついたと考えるべきではないだろうか。

誰が新しい大統領になるにせよ、米国はロシアとの関係を重視せざるをえない。いずれ、「覇権国」の地位を脅かすかもしれないチャイナ・パワーを野放図に膨張させないこと。その国策にそってアメリカは世界に布石を打っていくだろう。