北のシリア核支援で、ヒル次官補苦境 | 永田町異聞

北のシリア核支援で、ヒル次官補苦境

「ヒルは、ブッシュ大統領とライス国務長官に見捨てられたと感じているようだ」

アメリカの国務次官補、クリストファー・ヒルの友人はニューヨーク・タイムズ紙の記者にそう語ったという。

北朝鮮がシリアの核施設建設に協力していたというホワイトハウスの声明は、ヒルが推進してきた対北朝鮮ソフト路線を転換する意思表示だろうか。

昨年9月、シリアの砂漠にあった施設をイスラエル軍が空爆し、破壊した。それが、北朝鮮の支援を受けて建設されていた原子炉だったという。その証拠資料として原子炉の写真や、シリアと北朝鮮の原子力関係者が会合している写真などが公開された。

建設中の原子炉を破壊したことを当然、アメリカが知らないわけはない。イランとシリア、そしてカーン博士の「核闇市場」に、北朝鮮が深く結びつき、中東における核拡散の元凶となっている。そのことも、米情報機関はもちろん、把握していた。

ホワイトハウスがいまになってそれを「確信した」と宣言したのは、明らかに政策の変更が決定されたということだろう。

そもそも、イラクとともに「悪の枢軸」として名指ししていた北朝鮮との外交を2006年末くらいから融和路線へと転換した背景には何があったのだろうか。一番考えられるのは、アメリカの資源探査衛星からの情報分析で、北朝鮮がレアメタル(希少金属)の「宝庫」であることが明らかになったことだ。

レアメタルは、地球上における存在量が絶対的に少なく、ハイテク機器などの製造に欠かせない金属だ。たとえば軍需産業に必要なタングステン。世界の埋蔵量のほぼ半分が北朝鮮にあるとされる。電子基盤の材料に使われるモリブデンなども、北朝鮮には大量に眠っている。

欧米の投資マネーが北朝鮮に向かう流れが生まれたなかで、かつて石油メジャーのシェブロン取締役もつとめたライス国務長官は、対北穏健派、ヒル次官補の進言を受け入れて、ブッシュ大統領に北朝鮮敵視策を変更するよう説得した。

ヒルは「核放棄」を条件として、国交正常化をはかるという目標に向かって北朝鮮との交渉を進めたが、北朝鮮のウラン濃縮施設や他国への核拡散などに関する「核計画の申告」で行き詰まりを見せた。もともと北朝鮮が正確な申告をするはずはないのだ。

焦りを見せ始めたヒルは、北朝鮮側には「ウラン濃縮もシリア問題も米情報機関のもめごとであり、たいしたことではない」と楽観的に言い、米議会には「すぐに北朝鮮が核計画の申告を始める」と説明して、双方をなだめながら最終的にはあいまいな形で政治的決着を図ろうとした。

一説によると、これまで説明してきた核申告ではなく、「宣言文」か「共同声明」で申告をしたとみなすというカタチを考えているというのだ。こんなことを日本や韓国が受け入れられるはずがない。

こうしたことが、米議会やホワイトハウスの対北朝鮮強硬派の不信を招き、今回の「シリアへの核支援を確信する」という声明に結びついたのではないだろうか。

これを機に、おそらく米国は北朝鮮の核や拉致問題に対して毅然とした姿勢を復活させるだろう。北朝鮮の核疑惑は、日本や韓国など極東のみならず、アメリカが最重要視する中東の不安定化につながる問題である。