医師は言いにくそうに言った。
「あなたに残された人生はあと三年です」
その男はショックをうけた。
あと三年しかないなんて。どうして俺だけ……。俺だけ三十代で死ななきゃならないんだ。なぜだ。どうしてだ。
その男は自問自答してもわからなかった。そうこうしているうちに月日はすぎていった。
これからどう生きればいいのか。どう生きればいいんだろう。
何をやっても楽しくなかった。
その男は日記を書くように一日一編の詩を書いた。
俺は死ぬ。俺は死ぬ。俺は死ぬ。
まだ若いのに俺は死ぬ。
その男は旅をしたくなった。
世界を見たい。こんな狭い国にとどまっていたくはない。
その男は旅にでた。
世界中を見てまわった。
豪華な教会や宮殿を見た。
見る者を圧倒する雄大な自然も見た。
国をあげての派手な祭りにも参加して踊り狂った。
グラマラスな女性と一夜かぎりの情事をしたりした。
でも貧困にあえぎ、食べ物がなく、死んでいく人たちがいることを知った。
その男はその人たちのために働いた。
やがて戦争がおきた。
その男が国を出て三年がすぎていた。
その男は痩せ細った衰弱した体で銃をとって戦った。
その体を銃弾が突き抜けていった。
俺は死ぬ。俺は死ぬ。俺は死ぬ。
広い戦場で独り死ぬ。
その男は血を流しきり死んだ。
その男が戦死した日、書き続けた詩はちょうど千詩(せんし)になっていたのだった。
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