究極の愛 『乱歩地獄』 | 嵐屋書店

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本、映画、音楽、ゲーム等について、私なりの的確さで良いところ良くないところをあげていきたいと思います。何か面白いものはないかとおさがしの方の参考になれば幸いです。 Arashi Jun

 荒野を歩き続ける男。その男の前に沼が現れた……。めくるめく幻想の世界。「火星の運河」
 女が次々と変死していく。現場には和鏡が残されていた。鏡にとりつかれた男の最期は……。「鏡地獄」
 戦争で四肢をなくした男は妻に全面的に世話になるしかなった。二人の愛の行方は……。「芋虫」
 タクシー運転手は愛する美人女優を殺してしまう。その死体は自分の部屋に置いていたが……。「蟲」
 江戸川乱歩の短編小説四作を原作にして映像を凝らしたオムニバス映画

(ここからは観てからのほうがいいでしょう)
火星の運河
 もともと原作は散文詩のような作品である。ただただイメージがあるという感じなのだ。原作からしてわかりづらいものなのだが、映画は説明がない分もっとわかりづらくなっている。
鏡地獄
 原作を一部分にして、名探偵・明智小五郎を登場させて、あらたな殺人事件をつくりあげている。実相寺昭雄監督は過去にも乱歩作品の『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』を映画化している。イメージとしてエロスを強調しすぎじゃないかというのがあった。今回もエロス感が強い。原作をはなれて、また別の作品として観なければならない。和鏡をとりあげたのは良いのだが、殺人事件としては底が浅い気がする。まあ、時間的制約があったせいもあるだろうが。原作のファンとしては原作の設定をいかして、そこにプラスしてつくりあげてほしかった気がする。
芋虫
 設定からしてそのままでもグロテスクになってしまうのに必要以上に強調してグロテスクにしている。妻と夫の究極の愛をしっかりと描くべきではなかったか。第三者を登場させて味を薄くさせてしまっている。

 主人公をアレルギー性の湿疹に悩む厭人病者としたのは良い。ここでも主人公の女優に対する愛がメインのはずなのに、腐っていく死体処理というグロテスクさと狂気に焦点があたってしまっている。

 乱歩作品を映像化する場合、表面上のエロ・グロの奥にある究極の愛というものをきっちり描かないと、単なるエロ・グロで終わってしまう。特に後半二作品は究極の愛をきっちり描かず、しかもエロ・グロを強調してしまっている。つまり二重に良くないのだ。それとエロ・グロにしても、美的に優れていなければならないのである。それが増村保造監督作品の『盲獣』ではできていた。乱歩作品の映像化を成功させるためにはそういうマインドを理解し、美的に優れたものを撮るセンスとテクニックがないといけないわけである。残念ながら、この作品には足りなかったと言わざるをえない。
 それから私事ではあるが、以前から「乱歩地獄」という小説を創作することを考えていた。そんな時に『乱歩地獄』というこの映画ができることを知って少なからずショックをうけた。タイトルをかえねばならない……。それで「乱歩病奇談」というタイトルで完成させた。映画については同じタイトルで先をこされたのはショックではあったが、自分の作品につけようとしていたタイトルであるし、楽しみにしていた。期待があった分、がっかり感も大きかったと言えるだろうか。とかげ

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