起きてすぐ携帯をチェックすると寝る前よりかなりメールもLINEも未読の数が増えていた。
「…皆マメだな」
感謝というより年々増えるその数に自分で驚く。
夜中3時に『祝ってやるから今から来い』なんて大先輩の連絡もあって、この業界の人たちのバイタリティに若干引いた。
…俺20年後こんなに元気かなぁ?

とりあえず朝のルーティンであるスムージーを作る。
20年後も元気でいられる為に。
………メールの中に、智の名前がまだなかったことを気にしない為に。



「お願いします」
下に呼んでおいたタクシーに乗り込みジムの住所を告げる。
バッグにはオリジナルドリンクと水もあるけど…
なんか今日はコーヒー気分。
「あ、そこのコンビニ寄ってもらえます?」
久しぶりにコンビニに入ってMサイズのカップを取った。

キンキンに冷えたもの自体久しぶりかも…
誕生日の今夜も独りストイックな食事になるかもしれないのだからこれくらいは許そう、と勝手に自分を許す。
抽出されるコーヒーを眺めていると余計なことを考えてしまいそうで無駄に近くのスポーツ紙の見出しを読んだ。


タクシーの運転手は芸能人に慣れてるのか淡々と出発する。
まぁ楽でいいけど。
コーヒーを飲むわけでもなくストローを口につけてボーッと外を見た。

引越しのトラック。
2台分てすげぇ荷物だな。
そんなに物はなくても生きていけるよ。
シンプルに生きるのが人間一番だよ。

その先に花屋。
シンプルに生きるとは言え緑は欲しいんだよな。
今度時間あるとき見に来よう。
最近そんな余裕もなかったもんな。

てか反対側すごい道混んでんじゃん。
日曜のこの時間に車使わないから知らなかった。
皆どこに行くんだろう。
ドライブ?デート?
いいねぇ幸せな皆さんは。
俺なんて誕生日なのに仕事ですよ。
でもまぁそれは恋人の為の仕事なわけですけど。
その恋人からはおめでとうの連絡もないですけど。

…………今日しか会えないって言ってたのに。

なんで今日、会いに来てくれないの。
あれ以来会おうとしてくれないの。

ほんとに相葉くんに乗り換えちゃうの?
俺はもう要らないの?
俺が産まれた今日はあなたにとってもうどうでもいい日なの?

仕事モードに、いい男モードになってたはずなのに女々しい自分が顔を出す。

仕事の前に、一度だけ。
これで出たらジム行くのなんてやめるから。
すぐこのタクシーをあなたの家まで向かわせるから。


そう思って掛けた電話は…………



留守電電話に繋がった。