『トリカゴ』
辻堂ゆめ 著
(東京創元社・2021年9月・図書館)
蒲田署刑事課強行犯捜査係の森垣里穂子は、
殺人未遂事件の捜査中に無戸籍者が隠れ住むコミュニティを発見する。
そのコミュニティ、通称”ユートピア”のリーダーはリョウ、
事件の容疑者ハナは彼の妹だったのだ。
無戸籍者を取り巻く状況を知った里穂子は、
捜査によって彼らが唯一安心して暮らせる場所を
壊してしまうのではないかと苦悩する。
だが、かつて日本中を震撼させた”鳥籠事件”との共通点に気づき・・・。
辻堂ミステリの到達点、著者最高の力作!
辻堂さん、わたしにとっての4作目です。
『十の輪をくぐる』で辻堂さんにお出会いして、他の作品も読みたいと思っていたところ、
『トリカゴ』も良かったですよ。と教えていただきました。
ほんとに皆様、ありがとうございます。
本作は「無戸籍」ということが大きなテーマになっています。
25年前に世間を震撼させた”鳥籠事件”とは、
3歳の男の子と1歳の女の子が母親により鳥といっしょに
監禁されていたところから救出されるも、
約1年後に養護施設から誘拐されるという事件でした。
当時6歳で、その事件を覚えていた刑事の里穂子は、
事件で逮捕した女の子がその被害者ではないかと疑います。
年齢、時期が一致していたためです。
彼らの暮らすコミュニティを偶然知ってしまった里穂子は、
上司にも報告せずに彼らと接触し、本庁の羽山とともに
過去の誘拐事件を調べはじめます。
そんな里穂子の熱意や優しさに胸が熱くなりましたが、
同時にそこまでするのかと危うさも感じました。
里穂子は1歳の娘がいて、育休が明けたばかりでした。
「無戸籍」という「そこにいない存在」の人々、
学校にも行けず保険がないために医者にもかかれない人たち、
何とかならないものかと思ったら、法律も変わってきて
支援する人たちもいることがわかりホッとしました。
でも世間にはまだまだ認知されていないようです。
リョウとハナの兄妹はほんとに”鳥籠事件”の被害者なのか、
という疑問とともに、徐々に明らかになる真実。
ミステリーとしてもとてもよくできていてほんとに読み応えがありました。