『ヒポクラテスの悲嘆』

中山七里 著

(祥伝社・令和6年3月・図書館)

 

 

浦和医大法医学教室に餓死した遺体が運び込まれた。

亡くなったのは40歳の独身女性で、死後3週間が経っていた。

まだ4月だというのに埼玉で見つかった4体目のミイラ化死体だ。

埼玉県警の古手川によると、女性は大学受験に失敗して以来

20年以上引きこもっていたという。

同居していた70代の両親は先行きを案じ、

何とか更生させようと自立支援団体を頼ったが、

娘は激昂し食事も摂らなかったらしい。

彼女はなぜ餓死を選んだのか?それとも親が嘘を?

だが、解剖を行った光崎教授は、空っぽであるはずの異から

意外なものを見つけると___。

 

  プロローグ

  一 7040

  二 8050

  三 8070

  四 9060

  五 6030

  エピローグ

 

 

法医学ミステリ「ヒポクラテス」シリーズの第5弾で最新刊です。

 

各章のタイトルは登場人物の年齢を表していて、

老老介護を描いた一編を除いて、ほとんどが8050問題に代表される

「引きこもり」の問題がテーマとなっています。

 

一説によると全国で150万人もいるとされる引きこもり。

この作品ではどれも読んでいて辛くなるものばかりでした。

引きこもっている人は30代以上の人の様々な年代の人ですが、

受験に失敗したり会社でうまくいかなくて引きこもり、

どの人にも共通しているのが、自分がこんなになったのは

親のせいだ、国のせいだ、世の中のせいだと怒っていて、

自分では何一つ抜け出す努力をしようとしていないこと。

腹の立つところもありましたが、そう簡単にはいかないのだろうと

家族の苦悩、闇の深さを感じました。

 

読みながらずっと、わたしの小中高の同級生・A君のことを思い出していました。

何年前だったか、引きこもりみたいになっているらしいと噂を聞きました。

同窓会をよくする学年なのですが、当然ずっと欠席で、

もう誰も彼の話をすることもありません。

小中学校の時は、どちらかというと人気者でした。

高校も同じクラスだったのですが、今年、同窓会があり、

わたしも幹事の一人になっていて、出欠の返信ハガキに

言葉は忘れたのですが、世の中を恨むような言葉が書かれていました。

もう還暦すぎていますので、

この作品でいえば「9060」に当たります。

これから彼はどうなるのだろうとかも思いながら、

辛い気持ちばかりのする読書でした。