『アルプス席の母』

早見和真 著

(小学館・2024年3月・図書館)

 

 

秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。

湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、

選び取ったのはとある大阪の新興校だった。

声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。

息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。

不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激やせしていく息子。

果たしてふたりの夢は叶うのか!?

 

 

早見和真さんの最新刊。

早見さんは『店長がバカすぎて』など、少しだけ読んでいます。

 

今回は高校野球がテーマの作品ですが、高校球児の母の目線で描かれます。

高校野球といえば青春とか汗と涙とか友情とかのワードで語られそうですが、

それが表舞台としたら、舞台裏を覗いた気持ちです。

 

シングルマザーの菜々子は、母一人子一人という環境で、経済的に心配も。

父母会の謎のルール、親同士の付き合い方、そして監督との付き合い方。

 

この高校の若い監督が何だかあまり尊敬できそうにない人で、

この監督に息子を預けるのはどうなんだと思っていると

息子自身も思うところがありそうで。

そんなことを思いながら読んでいると、終盤、ガラリと印象が変わってきます。

 

また、大阪弁のことにしても作者は何か偏見があるの?と思うほど

悪く書かれていて、関西人の一人として嫌な思いがしていましたが、

(作者はどこ出身と思って見ると、神奈川、やっぱり、と思った)

これも終盤なんだか印象が変わるんですよね。

主人公の母子が周囲に影響されて大阪弁をしゃべりだしたりで。

 

何気ないシーンですが、焼き肉店で隣り合った小学校高学年の男の子に

菜々子ともう一人の母親が話しかけるシーンが好きでした。

どこかで誰かが見ていてくれます。

 

それでも、あの甲子園でさえやはりゴールではないのだ。

残酷にも、無情にも、あるいは幸運にも・・・。人生はそれからも続いていく。

航太郎が立派に成長して、

「今度は、僕自身がきちんと僕に期待したい」この言葉も良かったです。

 

 

間違いなく、今まで読んだ早見さんの作品の中で一番良かったです。

『店長がバカすぎて』が本屋大賞にノミネートされたそうですが、

今度はこれをノミネートして~~~と思いました。