戸惑う私を見て

斎藤さんは申し訳なさそうに言った。


「すみません。待ち伏せしてしまいました」


「…ぇ?」


「あ、いや…その…
   
   こちらのパン屋さんにはよく来られるんですか?」


「たまに…娘がここのパンが好きなんです」


 「そうなんですか。

    優しいお母さんなんですね」


「あ、いえ、私も食べる事好きなので」


「僕も食べる事が好きです。

   そうだ!ちょっとこれ…」



斎藤さんは今買ったばかりのパン屋の袋から

赤い瓶を取り出した。



「これ、ここのパン屋さんの

    オリジナルジャムなんです。

    この季節にしかなくて…

   もし良かったら、どうぞ」



赤い大きないちごがゴロゴロ入っている

美味しそうなジャムだ。



「そんな、せっかくお買いになられたのに…

   ダメですよ」
 

「いいんですよ。是非食べてみてください」


何度かそのやり取りを繰り返した後

彼の厚意を素直に受け取ることにした。

赤い瓶は思いのほか重く私は慎重に

自分の袋にそれを移した。

その様子を満足そうに見つめる斎藤さん。

私の胸は瞬く間にはしゃいでしまった。



「ありがとうございます。嬉しいわ。

   私、斎藤さんにお礼しなくちゃいけないですね」



アラフィフ女性は

相手の好意を感じとるととたんに図々しくなる。


明らかに向けられた斎藤さんの好意。

これを次に繋げなくちゃと

私も一歩踏み出してみたのだ。