春のエギングが、苦手である


秋のアオリイカはエギへの反応が良く、極端に言えば、「そこにいれば釣れる」。

だから2〜3投して反応がなければ、そこにはいないと諦めて、サクッと次の場所を探ることができる。

いわば、「動の釣り」である。


対して春のエギングは、「静の釣り」である。

産卵のために接岸するアオリイカを狙うことになるので、やみくもに投げても釣れるわけではない。

接岸のタイミングや潮の動きを読んで、ここぞというポイントでイカを待つようなスタイルなのである。

それでいて、高確率で釣れるというわけでもない。

気の遠くなるような忍耐の先に、何も待っていないことが度々あったりする。


ワタシはこの、「待つ」というのが苦手で、これまでどうしても春のエギングは敬遠しがちであった。

おっさんのくせに、落ち着きがないのである。

しかし今年、三河湾のアオリイカが過去に例を見ないくらい好調であることに刺激を受け、いよいよ苦手な「静の釣り」を実践しなければならないようである。


忍耐の男となることを決めたワタシが向かったのは、

いつもの離島である。
ここぞというポイントに入り、ひたすらエギをシャクる。

30分経過。

反応はない。

60分経過。

反応はない。

いつものワタシなら、ここであっさりポイントを移動しているだろう。

しかし、今日のワタシは違う。

今日のワタシは、忍耐の男なのである。


すると、30㍍ほど離れた場所で釣っていたお兄ちゃんに、ヒットが!

おぉ!

時合に突入か!?

さらに、そのお兄ちゃんの友人にもヒットが!

アツい!!

早る気持ちを抑えて、ひたすら自分のロッドに意識を集中する。

まだだ・・・

まだまだ・・・

まだまだ・・・・・・


次の、瞬間。


ドスンという鈍い重みをロッドが受け止めたかと思うと、同時に、不穏な音を立てながらラインが沖へと走る。

弓なりに曲がったロッドに、力強い生命力がビシビシと伝わる。

キター!!!

かなりデカそう!

ラインが次々と引き出され、リールのドラグがチリチリと唸りを上げる。

前回逃したキロアップ(推定)よりも、さらに大きそうな手応えである。

慎重にやり取りを続け、なんとか足元まで寄せてくると、イカの全容が明らかになる。

明らかに、キロアップ。

やばい、この大きさでは抜き上げられない(ワタシは基本、ギャフを持たないスタイル←どんなスタイルだ)。

一瞬、前回のバラしが頭に浮かぶ。

すると、ワタシの奮闘に気付いた他の釣人がギャフを持って駆けつけてくれ、間一髪、なんとか水揚げすることができた。

おぉ、ありがとう。
どん。

胴長35㌢、重さ1.7㌔のグッドサイズ!

これまでの自己記録が1.4㌔だったので、記録更新ということになる。


「ファッシャー!」と、威嚇するように不気味な声を上げるイカを目の前にして、ワタシはハァハァと息を切らしながら、ワナワナと手の震えが止まらない。

圧倒的な戦慄と興奮。

これが、春アオリの醍醐味である。


しばらくは興奮が収まらなかったが、やっとその波が引いていくと、今度はジワジワと満足感がこみ上げてきた。

いやぁ、良かった・・・

もうあとは、釣れなくてもいいや。

そこからのワタシは明らかに動きが緩慢になり、エギをロストしたり、掛けたイカをバラしたり散々だったが、悔しさは一切なく、その口元には常に穏やかな微笑みが浮かんでいるのであった。


しかし。


余計な力が抜けたのが良かったのか、1杯目を釣った約1時間後、更に強い衝撃がロッドに走る。
今度のは、先ほどのを軽く凌ぐ勢いでラインを引き出し、止まる気配を見せない。
おぉ、これも、デカい!
腰を落として体重をかけなければ、ロッドを持っていかれそうなほどの溢れるパワー。

リールのドラグが、ギュイーンと不穏な音を響かせ続けている。

おぉ、ヤバいぞ、こいつ・・・
一本の糸を通じて、得体のしれない不気味なものと対峙しているような感覚。
アドレナリンが再び、ドバドバと分泌されているのが分かる。

ラインを出されては巻き、巻いては出されてを何度繰り返しただろう。
とうとうその巨体が、水面に浮き上がった。
今度は助っ人の登場はなく、この怪物を自分の手で上げなければならない。

慎重に波打ち際まで寄せて、寄せる波の力を利用してなんとか岸に上げる。

どーん。
おぉっ・・・
胴長37㌢、重さ2.1㌔で、サクッと記録更新!

いやぁ、震えた・・・
まさか、数時間の間にキロアップが2杯も上がるとは・・・
今年の三河湾、すごいかも。
おわり。